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当ブログでは、「あの映画(小説)、一度観たんだけど、どういう話だったかが思い出せない・・・」とお困りの方のために、映画(小説)のストーリーを完全に網羅したデータベースを公開しております。詳しくは、カテゴリ内の「映画(小説)ネタバレstory紹介」をご参照ください。なお、完全ネタバレとなっていますので、未見の方はくれぐれもご注意ください。
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『ドリームガールズ』 ~歌・歌・歌のパワフル・ミュージカル~
『ドリームガールズ』 ~歌・歌・歌のパワフル・ミュージカル~_e0038935_20213016.jpg満足度 ★★★★★★★☆☆☆(7点)

『ドリームガールズ』(2006、米)
  監督 ビル・コンドン
  出演 ビヨンセ・ノウルズ ジェイミー・フォックス


ディーナ、エフィ、ローレルの3人は、トップスターの仲間入りを目指してオーディション出場に励んでいたが、泣かず飛ばずの日々。そんな中、カーティスという男に声をかけられ、ジミー・アーリーというスター歌手のバックコーラスに抜擢される。バックコーラスとして頭角を現し始めた3人は、ついに「ドリームス」としてデビューすることに。しかし、カーティスが「ドリームス」のメインボーカルに指名したのは、圧倒的歌唱力を誇るエフィではなく、美しい容姿をもつディーナだった。エフィは激しく抗議するが・・・。


歌・歌・歌で押しまくる、パワフルなソウルフル・ミュージカルです。

「ミュージカル」があまり好きじゃない人でも、「音楽」や「歌」が好きな人なら、それなりに楽しめるのではないでしょうか。まるで、2時間のコンサートに参加したような、そんな楽しさがあります。

ストーリーはどうということはありません。よくあるサクセス・ストーリーであり、よくある崩壊と再生の物語です。そういう意味では、ストーリーも素晴らしい傑作『シカゴ』にはちょっと及ばないかなという感じもしますが、ただ、ミュージカルって歌に集中したかったりするので、ストーリーはそんなに複雑じゃない方がいい場合も多いんですよね。

おそらく、この映画が好きな方はみなさん同じ感想を持たれたかと思いますが、やっぱり歌がいいです。「これ」という決定的ナンバーこそありませんが、どの歌も素晴らしく心に響いてきました。ひとりひとりのキャラクターの心情を、セリフではなく歌で表現しながらストーリーを進めていく。これこそ、ミュージカルの醍醐味です。

ハリウッドのミュージカルを観るといつも感じるのですが、本当に俳優たちが素晴らしいです。きっと、ものすごく努力しているのだと思います。ポっと出のアイドルでもトップスターになれてしまう日本の芸能界と、トップに立つにはかなりの下積みが必要なハリウッドの差を感じずにはいられません。

ジェイミー・フォックスこそあまり見せ場のない役ですが、他の3人のメイン・キャストはそれぞれが個性を発揮していて印象に残りました。

まずは、アカデミー賞はじめ昨年度の映画賞の助演女優賞を総ナメにした新星・ジェニファー・ハドソン。圧巻のひとことです。圧倒的な歌唱力。パワフルな存在感。結果的に、彼女の出現によって、この『ドリームガールズ』という作品は”エフィの物語”となりました。

そして、エディ・マーフィ。私は別に彼のファンでもなんでもないのですが、最近あまり名前を聞かなくなっていた往年のコメディ・スターがスクリーンで思い切り輝きを放っている姿は、やはり感動的でした。ファンの方には、きっと忘れられない作品になったと思います。このジミー・アーリーというキャラクターに存在感を生んだのは、紛れもなくエディ・マーフィの力だと思います。

それだけに、アカデミー賞を獲れなかったのは本当に残念。自分の名前が呼ばれなかった瞬間、失望して会場を去ったという噂を聞きましたが、本人もきっと手応えがあったのでしょう。でも、これだけの演技ができたのだから、きっとまたいい役にめぐり合えると思います。

最後に、ビヨンセ。世間一般の評価でいうと、「ジェニファー・ハドソンに食われた」ということになっているのでしょうか。賞レースにも絡むことが出来ませんでした。でも、私はこのビヨンセという音楽界のトップスターがディーナという主役を堂々と演じてからこそ、他のキャラクターがひきたったのだと思います。彼女が中盤、満たされない想いを歌い上げるソロナンバー『Listen』は、間違いなくこの作品のハイライトです。

こんな映画と出会うと、自分が日本人に生まれたことをちょっぴり悔しく思ったりもします。きっと、アメリカの観客は、手を叩き足でリズムを踏みながら、この映画を観たことでしょう。日本の映画館はおとなしすぎる!もちろん、私も含めて・・・。
# by inotti-department | 2007-04-03 21:27 | cinema
『ボビー』 ~人と人の繋がりを描く渾身の傑作!~
『ボビー』 ~人と人の繋がりを描く渾身の傑作!~_e0038935_22451126.jpg満足度 ★★★★★★★★☆☆(8点)

『ボビー』(2006、米)
  監督 エミリオ・エステヴェス
  出演 ウィリアム・H・メイシー イライジャ・ウッド

1968年6月5日、アンバサダーホテル。その日、ホテルでは次期米大統領候補のロバート・F・ケネディ上院議員の演説が予定されていた。2人だけの結婚式を控えた若きカップル、電話交換主の若い女性との浮気に夢中のホテル支配人、野球のチケットを入手しながら職を失うのが怖くて仕事を抜け出せないメキシコ人のコック見習いなど、ホテルには各々の想いを抱えた様々な人間が集まっていた。そして、事件は起こった・・・。


素晴らしい映画です!
作品の性質から言っても、アカデミー作品賞を取ってもおかしくなかったほどの傑作だと思います。非常に質の高い人間ドラマに仕上がっています。

構成がとても巧いですね。1968年6月5日にアンバサダーホテルでロバート・F・ケネディが暗殺されたという歴史的事実に、架空のキャラクター・出来事をうまく絡めたストーリー構成。僕は、”ヒストリー(事実)”と”ストーリー(嘘)”をミックスさせた映画が大好きなので、この手の映画はたまりません。

豪華キャストも見どころの1つです。しかも、シャロン・ストーンだのデミ・ムーアだの、なかなかいいところをつくなぁ、といった感じのアンサンブルなのです。主役不在の映画ですが、ストーリーに安定感があるのは、俳優たちの確かな演技力に支えられている部分も大きいと思います。

惜しむらくは、1つ1つの物語にもっと面白さ・力強さがあれば、なおよかったかなぁとも思います。おそらく、賞レースで先頭集団に入りきれなかったのは、そのあたりが原因なのでしょう。僕は全くそんなことはなかったのですが、観る人によっては、前半でやや退屈してしまう人・眠くなってしまう人もいるかもしれません。

事件発生後のラスト15分間は、出色の出来だと思います。ケネディの命を奪った銃弾は、その日ホテルに居合わせた人々の運命をも狂わせます。そこにかかるように聴こえてくる、ケネディの演説テープ。圧巻のクライマックスです。

映画の中盤まで描かれる、様々な人間ドラマ。その中には、人と人がしっかり繋がるような心温まるドラマもあれば、人と人が繋がることの難しさを描いたシビアなエピソードもあります。その全てのドラマが、エピソードが、人生が、1発の銃弾によってストップしてしまうのです。

人の命を奪うということが、どれほど愚かなことなのか。丹念に描かれた様々なドラマの全てがあっさりと犠牲になることで、この映画を観ている私たちは改めてそのことを思い知ります。

そこから感じるのは、「だからこそ、繋がろう」というメッセージです。人と人が繋がることの尊さを、ケネディはあのロング・スピーチで訴えたかったのだと思います。

とても心に強く残る、素晴らしい傑作です。
# by inotti-department | 2007-04-02 23:19 | cinema
『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』 ~まるで○○○ドアのような・・・。~
『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』 ~まるで○○○ドアのような・・・。~_e0038935_22293728.jpg満足度 ★★★★★★★☆☆☆(7点)

『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』(2005、米)
   監督 アレックス・ギブニー
   出演 ケン・レイ ジェフ・スキリング

1985年に設立されたアメリカの企業「エンロン」は、わずか15年で売上高全米7位の大企業に成長した。しかし2001年、エンロンの不正会計疑惑を報じた1つの新聞記事をきっかけに、その後たった2ヶ月でエンロンは倒産してしまった。巨大企業の内部では、何が起こっていたのか?エンロンはなぜ、崩壊してしまったのか?

久しぶりのドキュメンタリー映画鑑賞です。

この作品、アメリカで公開されたのは2005年なのですが、日本ではようやく昨年の11月に公開されました。

なぜやや遅れたタイミングでの公開となったのか?作品を観て、納得ができました。この映画を観ていると、イヤでもあの会社とあの元社長の顔がチラつきます。○○○ドア、○○エモン・・・。「経済」とか「会計」とか「不正」いう言葉に注目が集まっている今だからこそ、と配給会社も踏んだのでしょう。その戦略、正解だと思います。

とても興味深い映画です。内容の細かい部分は経済の難しい用語や手続きもチョコチョコ出てくるので全ては理解できませんでしたが、この映画の面白さはむしろ違うところにあります。「会社」というモンスターのような存在、そしてその中で働く人間たちの制御しきれないほどの欲望。映画は、「企業」と「人間」というものの本質に、鋭く迫ります。

私も「会社」という場所で働いている人間として感じることですが、「会社」というものは、常に成長しつづけなければ生き残れないという宿命を背負っているんですよね。どんな立派な企業も、どんな優れた会社も、少し気を抜けばすぐに失墜してしまう。「経済」とか「社会」という場所で生き残っていくということは、そんな厄介なことなのです。

この「エンロン」という会社の中で起こったことは、おそらく極端なことだったんだと思います。でも、多かれ少なかれ、同じような考え方は普通の一般的な会社にも存在するのではないでしょうか。少しでも売上を上げるために無茶をしたり。実態よりも自分たちの存在を大きく見せようとしたり。どんな会社だって、そういうことを考えない会社はありません。

そしてもうひとつ私が強く感じたのは、「経営」というものの恐ろしさです。「経営者」と言い換えてもいいかもしれません。

この「エンロン」の倒産で失業した人の数は2万人を超えるとのことですが、おそらくその中の大多数の従業員は、「エンロン」の不正会計の実態については知らなかったはずです。大きな権力を持ったひと握りの経営者たちによって進められた不正経営。そんな中で一生懸命働いていた従業員は、被害者以外の何者でもないでしょう。にもかかわらず、加害者側である役員たちだけがひと足先に自社株を売り抜けていたという事実には、同じ一般従業員である私としては怒りをおぼえざるを得ません。

○○○ドアの○○エモン元社長は、この映画を観たのでしょうか?彼は、どんなことを感じた(感じる)のでしょうか?おそらく彼なら、「やるなぁ、コイツら」とか「バカだなぁ、オレならもっとうまくやれる」とか、そんな風に感じるのでしょうね。そして、そういう考え方はきっと、企業というモンスターの中でナンバーワンになるためには、必要なたくましさでもあるのでしょう。

ただの善人・凡人でも生き残れないし、かといって行き過ぎた悪人・才人も潰されてしまう。会社とは、経営とは、本当に厄介なものですね。
# by inotti-department | 2007-04-01 22:57 | cinema
『イカとクジラ』 ~シュールでズレてる家族映画~
『イカとクジラ』 ~シュールでズレてる家族映画~_e0038935_00411.jpg満足度 ★★★★★★☆☆☆☆(6点)

『イカとクジラ』(2005、米)
監督 ノア・バームバック
出演 ジェフ・ダニエルズ ローラ・リニー

ブルックリンで暮らす4人家族、バークマン家。父は元売れっ子作家だが、最近は鳴かず飛ばずで大学講師暮らし。一方、母は作家デビューが決まり、父はあまり面白くない。2人の息子、ウォルトとフランクは、カフカやディケンズという言葉が普通に食卓で飛び交う環境で育ったためか、少し変わった一面を持っている。そんな中、夫妻に離婚話が持ち上がる。2人の息子は、1週間の半分ずつを父母それぞれの家で暮らすことになるが・・・・。


『イカとクジラ』。なんだかユニークなタイトルですが、ストーリーもまたとってもシュールな映画です。

家族の映画、ということになるんだと思います、一応。「ホームドラマ」というようなほのぼのした響きは全く似合わない映画ですが、そこで描かれているのは、ある1つの家族の姿です。不思議なストーリーに身を委ねているうちに、気が付いたらエンドロールになっていた、そんな感じでした。

面白い!という風に表現していいのかは正直わかりません。かといって、よくわからない、というような複雑な映画というわけでもありません。なんと言えばいいのか、本当に不思議な映画、としか言いようがないです。

少し変わった家族なんですが、元凶は誰だ、となったらやっぱりお父さんでしょう。このお父さん、全然人間ができてないんです。偏った理屈ばっかり述べては息子に悪影響を与えてしまうし、仕事がうまくいかないことに対しても言い訳ばかりだし、12歳の息子とテニスや卓球をプレイしてはムキになってしまうし。要するに、ただの子供みたいな人なんです。

かといって、お母さんが大人なのかといえば、そうでもありません。このお母さん、本心が非常に見えにくいのですが、僕にはナンダカンダで子供たちのことを深く愛しているようには感じられませんでした。本音を言ってしまえば、自分のことが誰よりも可愛い、というタイプの人なんだと思います。

そんな両親のもとで育った2人の息子。当然と言ってしまえば当然なんでしょう、少し変わったキャラクターになってしまっています。

お兄ちゃんのウォルトは、自分でも認めているように、お父さんに似たところがあります。プライドだけはやたら高いので、ほぼ女性経験がないのにプレイボーイぶったり、プロのロック歌手が作った曲を自作と偽ってコンクールで演奏してしまったり、読んでもいない小説を駄作と批判してみたり。

弟のフランクは、性に目覚めはじめ、そこらじゅうで自慰行為を繰り返しては精液をあちらこちらにこすりつけるイタズラを繰り返します。

要するに、4人とも、大人と子供の中間にいるような感じなんですよね。両親は大人なのに子供みたいな面をたくさん持っているし、息子たちはまだ子供なのに大人ぶろうと背伸びをしています。そして誰も、互いの本当の気持ちを掴むことができません。家族なのに・・・。

皮肉がきいているなぁと思いますが、とてもシャープな視点だよな、と感心しました。家族というものの本質を、ある意味とても鋭くついていると思います。子供たちは、自分たちが大人に近づくにつれ、自分たちの親が実はそれほど大人ではないということに気付きます。そんな時期のことを、「思春期」と呼ぶんですよね。こういう家族の現象って、万国共通なのではないでしょうか。これがもう少し成長すると、子供ももっと寛容になるんですけどね。そして、改めて親への感謝の思いを強くする。そういうものではないでしょうか。

普通の映画だと、そんな関係が、後半何らかの変化を見せるものなのですが、この『イカとクジラ』に関してはそのままパタっと終わってしまいます。「あれ、もう終わり?」というのが僕の感想でした。

最後に少しだけネタバレしちゃいます。この家族は、最後に少しはわかりあうことができたのか?非常に微妙なところです。お母さんとの子供の頃の記憶を思い出したウォルト。お母さんに「覚えてる?」と聞きますが、結局その答えはウヤムヤになってしまいました。僕は、なんとなくの感覚として、お母さんはきっと覚えてないんだろうなぁと感じました。

一方、お父さんは、その無駄に高いプライドをかなぐり捨てて、お母さんに復縁を提案します。でも、お母さんはその提案を、鼻で笑ってしまいます。これ、お父さんには相当ショックだったろうなぁと思います。きっと、お母さんなりの、お父さんに対する復讐という意味もあったんだと思います。ちょうど、オープニングのテニスシーンで、お父さんがお母さんに対してしたことと同じように。

ただ少なくとも、エンディング近く、家を出て行った猫を追いかけたあの瞬間、やはりあの4人は家族になっていたと思います。わかりあうことも出来ていないし、何も状況は改善されてはいないのだけれど、それでも家族であることをやめることはできないんですよね。

チグハグなダブルスをこれからも続けていくであろうその家族の未来を案じつつも、うまくいくといいなぁって、そんなことを感じました。
# by inotti-department | 2007-02-25 00:42 | cinema
『ディパーテッド』 ~ハイクオリティの傑作リメイク!~
『ディパーテッド』 ~ハイクオリティの傑作リメイク!~_e0038935_21132855.jpg満足度 ★★★★★★★★☆☆(8点)

『ディパーテッド』(2006、米)
  監督 マーティン・スコセッシ
  出演 レオナルド・ディカプリオ マット・デイモン

ボストンを牛耳るマフィアのボス、フランク・コステロ。ボストン州警察は、なんとかして彼を捕まえるため、ビリーを潜入捜査官として組織に送り込む。一方、コステロもまた、警察内部の情報を手に入れるため、手下のコリンを警察官として働かせていた。ビリーはコステロの犯罪の動きを警察へ知らせ、コリンは捜査の動きをコステロに伝える。しかし、警察もコステロも、自分たちの組織の中にスパイが潜んでいることに気付きはじめ・・・。


香港映画の大傑作『インファナル・アフェア』のハリウッド・リメイクです。しかも、監督はあの大巨匠マーティン・スコセッシ。そして、レオナルド・ディカプリオ&マット・デイモン&ジャック・ニコルソンという最強のキャスティング。これはもう、期待しない方がウソでしょう!

『インファナル・アフェア』、この映画、僕もう大好きなんです。特に、3部作のパート1は最高の大傑作です。公開当初、あまり話題になっていなかったこの映画を、僕は何人の友人に勧めたことか。そんな風に誰に対しても自信をもってオススメできるような映画って、そうそう何本もあるわけではありません。それぐらい、本当に面白い映画なんです。

で、この『ディパーテッド』です。いよいよ3日後に発表される米アカデミー賞にも、ノミネートされています。アメリカでは、非常に評判が良いようですね。

ただ、僕に言わせれば、そんなの当たり前じゃん!って感じなんです。だって、あの『インファナル・アフェア』のリメイクですよ!?普通にやれば面白くなるに決まってます。

さて、そんなわけで、ようやく観ることができました、『ディパーテッド』。期待に違わぬ、素晴らしい映画でした。ひたすら面白い、エンタテインメント性あふれる快作に仕上がっています。テーマとか社会性とかそんなことはどうでもよくて、とにかく、ストーリーが面白い。

さきほど、面白くて当たり前だと言いましたが、リメイクって決してそんな簡単なものじゃないですよね。今までにも、「あんなに面白い映画(あるいは原作と言い換えてもいいですね)が、どうしてこんなにつまらなくなってしまったんだろう?」というようなリメイクを、僕は何本も観てきました。その作品の本当の面白さを理解して、それを的確に再現する。これって、案外大変なことなのです。

そんな中、この『ディパーテッド』の完成度の高さといったら。オリジナルの香港版の面白い部分を、ほぼ100%抽出することに成功していると思います。そして、例えばジャック・ニコルソンのキャラクターなどは、オリジナルをも凌駕していると思います。もちろん、名優の怪演あってこそのものですが。なんちゅう俳優なのでしょう。凄すぎます。

マーティン・スコセッシという監督の怖ろしいほどの才能を、改めて再認識させられました。あれほどの大巨匠にもかかわらず、オリジナル版に最大限の敬意を払って映画を作っていることが強く伝わってきます。僕は、ひょっとしたら『インファナル・アフェア』とは別物の映画になってしまっているんじゃないかと心配していたのですが、非常に忠実なリメイクになっています。

何に感心したかというと、僕がオリジナル版の中で「凄い!」と感じた部分が、全てきっちりと残されていたことなんです。マーティン・スコセッシは、この物語の面白さを、とても的確に理解できているんだと思います。そして、香港映画とは全く違った、立派なアメリカ映画に仕上がっている。これは、決して簡単なことではありません。

ただ、同時に、この監督はやはりリメイクよりオリジナルに向いている監督だなぁとも感じました。この人、頭が良すぎるんです、きっと。もともと面白い物語をリメイクするとなったら、その面白さを出来るだけ崩さずに表現しようとしてしまう監督だと思います。だから、逆に言うと、オリジナルを上回るような大胆なリメイクを作ろうという発想にはならないんだと思います。

おそらく、『インファナル・アフェア』と出会う前に『ディパーテッド』を観ていたら、もっと震えるほど興奮していたと思います。でも、僕は既に『インファナル』を3回も観てしまっています。その『インファナル』に対する愛情を上回るほどの感動を、『ディパーテッド』から得ることはできませんでした。

僕の中で『インファナル』は★9つの映画で、『ディパーテッド』は★8つです。その差は何なのか?ストーリーはほぼ一緒。どちらも面白い。じゃあ、その★1つ分の差は何なのか?

もちろん、オリジナルとリメイクの差、という不公平な部分もあるのだと思います。でも、それだけじゃない。

少し考えてみましたが、2つあるんだと思います。1つは、キャスティング。ディカプリオ&デイモンも悪くないけれど、僕はトニー・レオン&アンディ・ラウのコンビに軍配を上げたいと思います。特に、寂しげな笑顔ひとつで潜入捜査官の哀しみを表現したトニー・レオンほどの深みを、ディカプリオからは感じられませんでした。ただ、ディカプリオのパワフルで野生的なアプローチも、さすがだなぁとは感じましたが。これはもう、好みの問題でしょうね。同じ役でも俳優によって肉付けが全然違うという、とても興味深い好例だと思います。

そしてもう1つは、”アジア”ということなんです。『インファナル』がもっている、あの独特の粘っこい空気感。あれってまさしくアジア的なもので、人によってはそれが耐えられない人もいるかもしれません。でも、僕はこのドロドロしたストーリーには、ボストンより香港が似合うなぁと感じました。音楽の使い方も、すごく面白いんですよね。

とはいえ、非常によくできた映画です。特に、『インファナル』を観ていない人にとっては、最高に楽しめる映画になっていると思います。この素晴らしいストーリーが、アメリカや日本の人に広く伝わったというだけでも、このリメイクにはアカデミー賞の価値が十分にあると思います。

そして、『ディパーテッド』を観て大興奮した方は、ぜひ『インファナル・アフェア』もDVDでチェックしてみてください。でも、その順番だと、きっと『ディパーテッド』のほうが上に思えるでしょうね。オリジナルとリメイクの関係って、本当に不思議です。
# by inotti-department | 2007-02-22 21:50 | cinema
   
映画・小説・音楽との感動の出会いを、ネタバレも交えつつ、あれこれ綴っていきます。モットーは「けなすより褒めよう」。また、ストーリーをバッチリ復習できる「ネタバレstory紹介」も公開しています。
by inotti-department
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