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当ブログでは、「あの映画(小説)、一度観たんだけど、どういう話だったかが思い出せない・・・」とお困りの方のために、映画(小説)のストーリーを完全に網羅したデータベースを公開しております。詳しくは、カテゴリ内の「映画(小説)ネタバレstory紹介」をご参照ください。なお、完全ネタバレとなっていますので、未見の方はくれぐれもご注意ください。
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> 『メゾン・ド・ヒミコ』 ~これはスゴイ傑作です~
『メゾン・ド・ヒミコ』 ~これはスゴイ傑作です~_e0038935_13205436.jpg満足度 ★★★★★★★★☆☆(8点)

『メゾン・ド・ヒミコ』(2005、日)
   監督 犬童一心
   出演 オダギリジョー 柴咲コウ 田中泯

仕事がバタバタしておりまして、久しぶりの更新となりました。

で、今日、紹介するのは『メゾン・ド・ヒミコ』という映画。
実はこれを観たのは、もうかれこれ1週間ほど前。

とても素晴らしい映画だったので、観てすぐに感想を書こうと思ったのだが、不思議と何を書いたらいいのかわからなかった。
一体何が素晴らしかったのか、この映画はなんだったのか。うまく言葉で説明できない映画というのがたまにあるが、この映画はまさにそんな感じなのだ。

1週間たっても、やっぱりよくわからない。
ただ言えるのは、これはスゴイ傑作だ、ということだけだ。

さて、ストーリーの紹介。
塗装会社で働く沙織のもとを訪れた青年・春彦。彼は、ゲイのための老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」の経営者である卑弥呼の恋人。卑弥呼は沙織の父親だが、母親と沙織を捨ててゲイバーをはじめて以来、絶縁。春彦は、1日3万円で「メゾン・ド・ヒミコ」でバイトしないかと沙織を誘う。借金を抱える沙織は、金に目がくらんで「メゾン」へ。しかし、卑弥呼は末期ガンで、余命あとわずかとなっていた・・・。

<以下の感想、ネタバレ含みます。未見の方は、ご注意ください。>

「ゲイ」というのは、なかなか繊細なキーワードである。
声高に嫌悪感を表に出す人もあまりいないが、かといって「全面支持」を高らかに掲げる人もほとんどいない。いわば、本気で議論されることはあまりない、ある種の「タブー」である。

でも、当事者にしてみれば、それはとんでもない話だ。
ゲイ同士の恋愛だって、男性と女性の恋愛と何も変わらない。にもかかわらず、それが同性同士であるというだけで、白い目で見られてしまう。

日本社会の根底に、ゲイに対する差別が残っているのは、まず間違いない。感情の問題はさておき、それを事実として受け止めることから、この映画はスタートしている。

映画の主人公である沙織も、それは同じ。
自分を捨てた父親に対する嫌悪感。その父親がゲイであるということへの嫌悪感。はじめて「メゾン・ド・ヒミコ」に足を踏み入れた沙織は、ホームで生活するゲイ住人たちへの嫌悪感を露骨にあらわにする。

この彼女の目線が、社会一般の人たちの目線と重なる。そして、映画を観ている観客の目線とも。沙織は、ゲイを受け入れることができるのか?そして、父親を許すことができるのか?
それを最大のキーワードに、映画は物語を進めていく。

次第にゲイ住人たちとの交流を深めていく沙織。その繋がりは、ディスコでのダンスシーンで頂点を迎える。このシーンのもつ、滑稽なまでのハッピーっぷりが最高に素晴らしい。

「あ、沙織はゲイを受け入れることができたんだな」そう思いたくなるが、ことはそんなに甘くない。彼女の前に立ちはだかる「ゲイ」という壁。沙織と春彦は恋に落ちるが(はっきりと告白するシーンこそないが、間違いなく2人は想いあっていたと思う)、一線を越えられない。ゲイである春彦には、女性をどうやって愛したらよいのかがわからないのだ。

そして、沙織とゲイたちとの間に生じる亀裂。ゲイの1人であるルビイが病気になり、住人たちはルビイを家族に引き取らせる。ゲイである事実を隠したまま。これに激怒する沙織。「ご家族がどれだけこれから苦しむかわかる?あんたたちゲイのエゴのせいで」

沙織と春彦も、沙織と住人たちも、彼らがゲイであるという事実さえなければ、もっとスンナリとわかりあえたはず。

そして、沙織と父親も。

沙織は結局最後まで父親を許せないまま、父親はこの世を去る。父親の荷物を全て引き取って、メゾンを去る沙織。沙織とゲイたちとの、切ない永遠の別れ。

しかし、映画は最後に素敵なクライマックスを用意している。

塗装会社の仕事に戻った沙織のもとに届いた1枚の写真。そこに写っていたのは、あるイタズラ書き。それを塗装で消すため、沙織はそのイタズラ書きの書かれた場所へ向かう。

そこは、「メゾン・ド・ヒミコ」。書かれていたのは、「沙織に会いたい」のイタズラ書き。現れた沙織を住人たちは温かく迎え、映画は幕をとじる。

犬童監督は、前作『ジョゼと虎と魚たち』でも、障害を抱えた少女と健常者(言葉の是非は別にして)の青年の恋を描いた。社会的弱者とされる人たちとの交流。それは、決して簡単なことではない。

でも、この『メゾン・ドヒミコ』が持つ温かさは何だろう。簡単ではないけれど、かといって難しいことでもない。そう教えてくれるかのようだ。

なぜ沙織は再び「メゾン・ド・ヒミコ」へ行ったのか。それは、もう1度彼らに会いたかったから。それだけのこと。彼らがゲイであるとか、そんなことは関係ない。この瞬間、沙織と彼らの間に立ちはだかっていた壁は、あっけなく崩れた。

そしてまた、沙織と卑弥呼の間の壁も崩れたのではないかと僕は思う。ベッドから卑弥呼が告げた言葉。「あなたが好きよ」。沙織はそのとき「何よ、それ」と相手にしなかったけれど、きっとそのとき、何か氷のようなものがゆっくりと解け始めたのではないかと思うのだ。

柴咲コウが最高の演技を見せている。眉間にシワを寄せた頑なな表情が、少しずつ温和になっていく表情の変化の素晴らしさ。複雑な感情の揺れを、ごくごく自然に見せる演技の豊かさ。

そして、田中泯。その存在感のスゴイこと。ベッドの上から動かないのに、常に世界の中心にいる存在感。世間からさんざん蔑まれ、それでもゲイたちの心の支えとしてありつづけようとした男の強さ。彼の揺るぎない強さがなければ、映画は説得力を持たなかっただろうし、沙織も「メゾン・ド・ヒミコ」に通いつづけることはなかっただろう。

社会には、人と人の交流を阻害する要因がたくさん潜んでいる。それってとてもおかしなことなんだけれど、でも、やっぱり認めざるをえない。誰が悪いとかそういうことじゃなく、でも、やっぱり確かにそれはある。

だけどそれをなくしていけるような素敵な力が、やっぱり確かに人間にはあるのだ。
by inotti-department | 2005-10-26 14:24 | cinema
映画・小説・音楽との感動の出会いを、ネタバレも交えつつ、あれこれ綴っていきます。モットーは「けなすより褒めよう」。また、ストーリーをバッチリ復習できる「ネタバレstory紹介」も公開しています。
by inotti-department
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