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> 『クラッシュ』 ~誠実で精巧な”アカデミー賞受賞作”~
『クラッシュ』 ~誠実で精巧な”アカデミー賞受賞作”~_e0038935_2147036.jpg満足度 ★★★★★★★☆☆☆ (7点)

『クラッシュ』(2005、米)
   監督 ポール・ハギス
   出演 サンドラ・ブロック ドン・チードル


夜のLAで起こった1つの交通事故。そこから出てきたのは、黒人刑事ルイスの死体。同じく黒人刑事のグラハムは、捜査に乗り出す。一方その頃、同じLAの様々な場所で、様々な人たちがそれぞれの葛藤と戦っていた。雑貨屋を営むペルシャ人は、イラク人と間違われてテロリスト扱いを受ける。裕福な黒人夫婦は、人種差別主義者の白人刑事から辱めを受ける。若き黒人2人組に車を奪われた夫婦は、家にまで強盗がやってくるのではないかと怯える。それぞれの想いを胸に、彼らは同じ夜を超えていく・・・。


今年度のアカデミー作品賞、受賞作は『クラッシュ』に決まりました!

前評判では、『ブロークバック・マウンテン』が大本命と言われてたので、ビックリした映画ファンも多かったかもしれない。といっても、今年の候補作は日本未公開のものも多かったし、日本人の僕たちにとっては、予想のしようもなかったのだけれど。

ということで、アカデミー賞が発表された翌日、さっそく『クラッシュ』を観てきました!昨年、アメリカで最も評価された映画、その出来栄えはどんなもんざんしょ。お手並み拝見ってな気持ちで劇場へ行ったら、いたいた、同じこと考えてる同類の仲間たちが(笑)。夜8時50分からのレイトショーだってのに、席は半分以上埋まっていたから驚き。相変わらず、日本人は賞に弱い。もちろん、自分も含めて(笑)。

感想。
うんうん、さすがによく出来てます。すごく誠実に作られているし、最後までスキがない構成は見事のひとこと。しかも、後半へ進むに従って映画がどんどん面白くなっていく。とっても、いい映画だと思う。

何が素晴らしいって、やっぱりひとりひとりの人物描写。いろんな登場人物が出てきて、ひとりあたりの持ち時間はすごく限られてるんだけれど、誰ひとりとして”いいかげん”に扱われていない。とても誠実に、丁寧に、全ての人物を映画の中にしっかりと存在させている。

しかも、みんなすごくリアルな人間なのだ。人間って、「この人は善人で、あの人は悪人」なんて単純なものじゃないはずなんだけど、どうしてもフィクションの世界だとステレオタイプな人物設定になりがち。でも、この映画の登場人物たちはそうじゃない。善人かと思ってた人が思いもかけない行動に出たり、その逆もまたしかり。だから、ひとりひとりが抱えている痛みや葛藤が、すごくヒリヒリと観ているこっちに伝わってくるのだ。そういう誠実さこそ、この映画の最も素晴らしいところだと思う。

それにしても、人種差別というのは、すごく難しい問題だ。ましてやアメリカという国には、世界中のありとあらゆる人種が集結している。この『クラッシュ』という映画は、アメリカが抱える闇の部分を、改めて真剣に取り上げて問題提起してみせている。

差別っていうのは、もう人間の性(さが)みたいなものなのかもしれない。って、こんなこと書いたら怒られるかもしれないけれど、そういう面って誰しもが多かれ少なかれ持っているんじゃないかな。例えば、道を歩いていて怖そうな顔したお兄さんが歩いてきたら、なんとなく目をそらしてしまう。例えば、デパートで奇声を発している人がいたら、なんとなくジロジロ見たり舌打ちしたりしてしまう。こういう行動だって、言ってみればひとつの差別みたいなものだと思うのだ。

この映画の中でも、たびたびそういう人間の一面が描かれる。病的なまでに黒人を嫌悪する女性。ペルシャ人を見ただけでテロリスト扱いする人。黒人の女性に権力を振りかざして嫌がらせする白人刑事。自分が黒人だということを誇りに思えず、白人に対して弱腰になってしまう男。などなど。

『クラッシュ』は、そうしたひとつひとつのエピソードに、ほとんど感情を挟まない。クールに、シビアに、一定の距離を置きつつ、エピソードを積み重ねていく。しかし、そうしたエピソードの繰り返しが、やがて大きなエネルギーを持ちはじめる。そのエネルギーが少しずつ解き放たれるとき、無関係に見えた様々な断片が、わずかずつではあるが絡まりはじめるのだ。見事な構成。しかも、その絡ませ方が、すごく自然で、全くいやらしくないのだ。

と、これだけ褒めておいてなんなんだけど、僕はそこまでこの映画が大好きなわけではない。少なくとも、2005年にアメリカで作られた全ての映画の中で、この映画が最も優れた作品だとは僕は思わない。スミマセンね、褒めたりけなしたり落ち着きがなくて(笑)。

うまく言えないんだけど、前半のエピソードの積み重ね方が、個人的にはあまり好きではなかったのだ。「差別」「差別」のオンパレードが、しつこいというかクドいというか。そりゃあリアルな実態を見せるというのはわかるけど、その時間を使って、もっと映画として何かを仕掛けることはできなかっただろうか?何かを訴えることはできなかっただろうか?要求が高すぎるかもしれないけれど、やっぱりアカデミー賞の作品賞を取るような映画には、僕はプラスアルファを求めてしまうのだ。

とはいえ、すごく誠実に、精巧に作られた良作だと思います。
暗い映画だし、辛くなるシーンも少なくないけれど、最後にはほのかな希望も見えてくる。そういう優しさや温かさが少しでも感じられたことが、僕には何よりもうれしかった。
by inotti-department | 2006-03-08 22:40 | cinema
映画・小説・音楽との感動の出会いを、ネタバレも交えつつ、あれこれ綴っていきます。モットーは「けなすより褒めよう」。また、ストーリーをバッチリ復習できる「ネタバレstory紹介」も公開しています。
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