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> 伊坂幸太郎『砂漠』 ~やっぱり面白い!伊坂流青春小説~
伊坂幸太郎『砂漠』 ~やっぱり面白い!伊坂流青春小説~_e0038935_2222182.jpg
満足度 ★★★★★★★☆☆☆(7点)

『砂漠』
 伊坂幸太郎・著
 2005年、実業之日本社


大学に入学した北村は、4人の友人との運命的な出会いを果たす。ヤマセミのような髪型の鳥井、世界平和のためにひたすら麻雀のピンフ(平和)をあがりつづけるという変わり者・西嶋、超クールな美女・東堂、穏やかな性格ながら超能力の持ち主・南の4人だ。ひたすら麻雀に明け暮れたり、大学生ならではの素敵な恋愛をしたり、謎のホスト軍団と戦ったり、超能力を使って嫌味な評論家をやっつけたり。彼らの大学生活は、あっという間に過ぎ去っていく。


友情、恋愛、合コン、麻雀・・・。
「これぞ青春小説!」とでも言うべきキーワードがこれでもかと並べてしまうと、「なんだよ、伊坂幸太郎にしては普通っぽいなぁ」などと思われるかもしれない。でも、そこはご安心ください!決して平凡な駄作など書かない伊坂幸太郎、この『砂漠』もやっぱり一味違う”伊坂流”青春小説となっている。

いろいろな面白さがある小説だが、1つ挙げるとすれば、やはりキャラクターの魅力ということになると思う。主人公の5人それぞれが、それぞれに素敵な個性を持っている。彼らの他愛の無い会話を読んでいるだけで、こちらとしては微笑ましい気持ちになれるのだ。

特に西嶋が面白い。「世界平和のために、ピンフ(麻雀の役の名前。ちなみに漢字で書くと”平和”)をあがりつづける」と豪語したり、”プレジデントマン”なる連続通り魔男を支持したり。正直言って考え方はメチャクチャで、おそらく読む人によっては全く好きになれないキャラクターかもしれないけれど、僕には彼のデタラメな考え方がとても痛快で心地よかった。もちろん、彼の良さを生み出しているのは、語り部の北村はじめ、彼のデタラメさを温かく受け入れる親友4名の寛容さがあってのものなのだけれど。

物語は、奇妙ながらも不思議と心に残るエピソードを積み重ねながら、「春」→「夏」→「秋」→「冬」と進んでいく。4章目の「冬」の冒頭で、主人公の北村が「大学の1年間なんてあっという間だ」と呟くシーンがあるが、自分の大学時代を振り返っても、確かにそうだったなぁと思う。ところが、この何気ないセリフの背景には、実は小さなミステリー的仕掛けもあったりして・・・。これ以上触れるとネタバレになるので避けるが、本格的なミステリー作家ではないが、伊坂作品には必ず読者をアッと驚かせる小さなミステリーが潜んでいて、それも彼の小説を読むひとつの楽しさになっている。

伏線を張りながら、終盤に思わぬ形でそれを活かす持ち前の巧みなストーリーテリングは今回も健在。謎の格闘家しかり、南の超能力しかり。物語全体にちりばめられた小さな秘密も含め、オーソドックスながらも”もう1度読み返したくなる小説”にきちんとなっている。

大学時代って、本当に不思議な時間だ。いま振り返っても、「あの頃は良かったなぁ」とも思うし、「あの頃は何もしていなかったなぁ」とも思う。さらに「もう1度大学時代に戻れるなら、こういう風にするのになぁ」っていう思いもあるけれど、たぶん、ナンダカンダいって、僕は何度大学生になれたとしても毎回同じような過ごし方をするような気がする。

すごく時間があって、すごく自由で、でも決してただの子供ではなくて、けれどもピンと背筋の伸びた完璧な大人ではない。たぶん、大学時代(あるいは、それに準ずる時期)って、その人のキャラクターが確立される時でもあり、同時にその人のキャラクターが生活スタイルの違いとなって如実に現れる最初の時期のような気がする。

そういう意味じゃ、西嶋にしろ、鳥井にしろ、この小説の登場人物たちは、とても素敵な過ごし方が出来た人たちだと思う。小説の中で描かれているのは、彼らの大学生活のごくごく1部のエピソードに過ぎないのだけれど、でも、彼らは確実に前に進んでいる。そして、小説のクライマックスの5人は、明らかに、オープニングの5人よりも光輝いている。いや、西嶋は変わっていないかな(笑)。

個人的な本音を言うと、伊坂幸太郎には、僕はもっとハイレベルなものを期待してしまう。でも、そうはいっても、この『砂漠』も一級品のエンタテインメント小説であることは間違いない。
by inotti-department | 2006-07-15 23:08 | book
映画・小説・音楽との感動の出会いを、ネタバレも交えつつ、あれこれ綴っていきます。モットーは「けなすより褒めよう」。また、ストーリーをバッチリ復習できる「ネタバレstory紹介」も公開しています。
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