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カテゴリ:book ( 14 )
村上春樹『風の歌を聴け』 ~作家宣言!伝説の幕開け。~
e0038935_1565776.jpg満足度 ★★★★★★☆☆☆☆ (6点)

村上春樹・著
『風の歌を聴け』
1979、講談社文庫


「好きな作家は誰ですか?」と聞かれると、バカのひとつ覚えみたいに「村上春樹」と答えていた時期があった。

ここ数年、意識的にいろいろな作家の本を読むようになってからは、「伊坂幸太郎」や「東野圭吾」など、同じ問いに対して答えを変えてみるケースも出てきた。自分の嗜好も、多少は幅広くなってきたものだなぁと思う。

でも、村上春樹に対する思いは、今もまったく色褪せたわけではない。
彼の長編は全て読んだけれど、ハッキリ言って全て面白かった。
今でも間違いなく、最も好きな作家のひとりである。

さて、ブログ開設を機に、新たに読んだ本の感想を日々タラタラと書いているわけだが、先日、突然ふと気付いた。
新たに読んだ本の感想を書く・・・。
「じゃあ、昔読んだ本の感想は、いつ書けば良いのだ!?」

というわけで、村上春樹作品を読み直すことを決意した。
そして、改めて1作ずつ、感想を記していこうと思う。

ただ、その前に、ひとつだけ断っておきたいことがある。
僕は村上春樹ファンではあるが、決して熱心な村上春樹マニアではない。

彼が熱心なヤクルトファンであることぐらいならなんとか知っているが、彼の生い立ちも知らないし、全発行作品を網羅したわけでもない。
世に言う”ハルキスト”ではない僕の感想である。ひょっとすると、熱心なフリークの方々には、読んでいてイライラするケースも出てくるかもしれない。

でも、僕は僕なりに彼の作品と向き合っていきたいと思っているので、無知を承知で自由に書こうと思う。彼の作品には、自由な解釈の余地が残されているものが多い。だから、僕も、自由に解釈して書く。

それでは、まず紹介するのは、伝説のデビュー作、『風の歌を聴け』である。

簡単なストーリー。
夏休み、生まれ育った街に帰省した大学生の僕は、友人の”鼠”と酒を飲みながら、毎日とりとめのない話をして過ごしていた。そんなある日、行きつけのバーのトイレで、倒れていた女性を介抱する。彼女と親しくなった僕は、デートらしきものをしつつ、互いの距離を縮めていく。しかし、彼女は突然旅行に発ち、そして”鼠”もまた、何か大きな悩みを抱えて口を閉ざす。僕の夏休みの終わりは、すぐそこまで迫っていた・・・。

<以下の感想、ネタバレ含みます。未読の方は、ご注意ください。>

何かが起きそうで、結局、何も起きないまま終わる物語。
何か重大なメッセージが隠されていそうで、結局、何も隠されていないのかもしれない、そんなつかみどころのない小説。

この小説を読み解くのは、本当に困難な作業だと思う。だから、自分なりに100%読み解くことができた人にとっては、「この作品が村上作品の中でも最高傑作だ!」ということになってもおかしくはないと思う。それが、作家の想いと100%一致しているのかどうかは、別として。

僕の感想を言えば、この作品にとびっきりの高得点を付けるわけにはいかない。そんなことをしたら、これ以後の彼の作品には、全て100点満点をつけなければならなくなるからだ。

『風の歌を聴け』を書いた時点の村上春樹は、まだプロの小説家とは言えないと思う。彼は、アマチュア的な気持ちで、アマチュア的な異色作を書ききった。しかし、そこにはまだ、第3作『羊をめぐる冒険』以後の彼の作品に見られるような、ストーリーテリングの魅力が欠如している。

ただ、この作品が、30年近くもの間、トップの小説家としてこの国に君臨している男のデビュー作だということを考えると、やはり何とも言えない感慨深さが沸きあがってくるのは確かだ。
そして、思う。
これは、彼の「作家宣言」だったのだな、と。

冒頭の独白が、とても感動的だ。
様々な人間や出来事が自分の前を過ぎ去り、そして、深い孤独を感じている”僕”。その”僕”が、こう言う。
「今、僕は語ろうと思う。」

語られるテーマは、「喪失の哀しみと孤独。そして、そこからの再生」。

物語の中で、主人公がかつて付き合った3人の女性の話が語られる。彼は、彼女たちを愛していた。しかし、失って時間が過ぎ去ったいま、彼は彼女たちの顔を誰ひとり思い出すことができない。

また、短い夏、一瞬だけ付き合った女性とも、別れが訪れる。冬に戻ると、もう彼女の姿はない。
そして数年たち、彼は結婚して、それなりに幸せな日々を送っている。
物語は、そこで終わる。

また、中盤に、こんなくだりがある。
「クールに生きたいと思い、自分の思っていることの半分しか口に出すまいと決心した。そして気が付いたら、思っていることの半分しか語ることのできない人間になっていた」
「他人に伝える何かがあるかぎり、僕は確実に存在している。でも、誰も僕になど興味を持たない。そして、存在意義を見失い、やがてひとりぼっちになった」

”僕”は、極めてクールな精神の持ち主だ。その語り口もクールで、無理に他人の感情に踏み込もうともしない。そして、自分自身の感情にも。
しかし、彼は、人生を諦めているわけではない。彼は、多かれ少なかれ、孤独や哀しみを感じている。そして、なんとか、そこから抜け出す術を手にしたいと願っている。

その方法が、”語る”、つまり”書く”ということだったのだ。

この”僕”が、イコール”村上春樹”なのかどうか、それは実際にはさほど重要なことではない。大切なのは、”僕”の抱えている孤独の正体が、この小説を読んで何かを感じ取った読者が抱えているそれと、ほぼイコールである、ということなのだ。

そして、この構図は、21世紀に入っても、何も変わっていない。また、村上春樹が一貫して書き続けているテーマも。「喪失と再生」。『ノルウェイの森』も『海辺のカフカ』も、内包しているテーマは、この『風の歌を聴け』と何ひとつ変わらない。

「今、僕は語ろうと思う」
伝説は、この言葉から始まった。
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by inotti-department | 2005-09-03 02:53 | book
雫井脩介『犯人に告ぐ』 ~抜群の面白さ!でも、詰めが甘いなぁ。~
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満足度 ★★★★★★★☆☆☆(7点)

雫井脩介
『犯人に告ぐ』
2004、双葉社


小説は、まず作家で選ぶ。
これが、本選びの僕の鉄則だ。

映画の場合、周りの友人の口コミとかテレビの新作紹介なんかで、ふと「観てみよう!」って思ったりする。でも小説の場合、そういう情報はほとんど入らない。

かといって、書評を読むのは好きじゃない。話がわかっちゃう危険があるから。って、ブログでさんざんネタバレしてる僕が言うのも何だけど(笑)

そんなわけで、まず作家で選ぶ。信頼できる人の本なら、まず間違いはないだろうから。
でも、それだと問題が生じる。そう、いつまでたってもレパートリーが広がらないのだ。

だから、ときどきタイトルで選ぶ。これは、かなり危険な賭けだから、外れる場合も多いのだけれど。他に基準がないのだから、仕方あるまい。

さて、『犯人に告ぐ』。これも、タイトル買い。なんだか、面白そうなタイトルだ。表紙の豪快な明朝体も、パワフルで良い。

しかし、この作者の本はまだ読んだことがない。大丈夫か?
不安を感じつつも、ページをめくりはじめた。

簡単なあらすじ。
相模原で起こった男児誘拐事件。神奈川県警の巻島警視は捜査の現場指揮をとるが、犯人との接触に失敗し、男児は死体で発見される。その後の記者会見で巻島はメディアの総攻撃にあい、理性を失って暴言を連発。責任をとらされ、左遷される。それから6年。川崎で連続男児殺人事件が起こる。巻島は、かつての上司・曾根から呼び出され、事件の捜査指揮を依頼される。巻島は、曾根の捜査方針に興味を抱く。それは、テレビのニュース番組に出演して公開捜査を行い、犯人”バッドマン”を誘い出そうという「劇場型捜査」という手法だった。巻島は自らテレビに出演し、”バッドマン”との接触を図るが・・・。

<以下、ネタバレ含みます。未読の方は、ご注意ください>

最初の20ページぐらいで、グイグイ引きこまれた。パワフルで、エネルギッシュなストーリー展開。スピード感も最高だ。てっきり、この相模原誘拐事件の捜査の過程でテレビに出るんだと思ったら、大間違い。この事件は1章で終わって、舞台は6年後へ。

要するに、最初の事件はプロローグみたいなものなのだが、このプロローグがとても面白い。最後まで読み終えて振り返ってみても、一番面白いのはこの1章だと思う。

特に素晴らしいのが、記者会見のリアルな描写。自分の真意を伝えられない巻島のもどかしさ。他人の弱みにずけずけ踏み込んでくる、メディアの暴力的な言葉攻め。そして、巻島はポロっと、取り返しのきかない失言を吐いてしまう。

メディアのもつ暴力性と、警察という組織の本音。そして、それに翻弄される悲しき被害者たち。この小説のメインテーマの全てが、1章には詰まっている。

そして、2章から物語は本筋へ。巻島は、犯人にボロを出させるために、テレビからしきりに犯人を挑発する。かつて自分が嫌というほど思い知ったメディアの力を、今度は逆に利用するのだ。

しかし、この手法には批判の声があがる。巻島は、犯人とのやりとりを続けるために、犯人への共感めいた発言を繰り返す。湧き上がる疑問の声。さらに持ち上がる、巻島の証拠捏造疑惑。巻島バッシングに活路を見出そうとするライバル局も巻き込んで、捜査は混沌としはじめる。

メディアを巻き込んだ捜査の過程が、とにかくスリリングで面白い。しかし、その面白さはさておき、捜査の手法として、この「劇場型捜査」がどこまで有効なのかは、正直言って疑問だ。実際、バッドマンからの手紙が途中で届かなくなると、警察は捜査の手がかりを失ってしまう。「おいおい、警察、大丈夫か~!?」思わず、そんなヤジのひとつも飛ばしたくなる。

巻島の上司・植草がまたヒドイ。学生時代のフラれた恋人・未央子に再接近するために、現在ライバル局の看板アナウンサーになっている彼女に、捜査情報を流してしまうのだ。おいおい、警察、大丈夫か~!?

最初は、この植草の行動が、逆に公開捜査を盛り上げる効果を発揮したりもするのだが、行動はどんどんエスカレートしていく。そして、ついには、捜査の足を完全に引っ張りはじめる。植草のリークに気が付いた巻島は、架空の犯人逮捕をでっちあげて、植草を罠にはめる。この場面は、最大のカタルシス。植草のアホな行動にイライラされっぱなしだった読者は、ここでやっとスッキリできる。さぁ、あとは犯人を捕まえるだけ。

事件解決の決め手となるのは、犯人が落とした1通の手紙。犯人からの連絡が急にパッタリ途絶えてしまったのは、これが理由だったのだ。犯人の小心者っぷりを直感した巻島は、最後の賭けに出る。手紙の発見場所付近に犯人の居住地を絞って、片っ端から指紋を採取していくことをテレビで宣言する。そして、あっけないほど簡単に、犯人は逮捕される。

あれ、これだけ煽っておいて、意外に逮捕はあっさりなのね・・・。そして、動機の説明も特になし。そう、この小説は、犯人は誰かというところにミステリー性は全くないのだ。そのプロセスの面白さが、この物語の全て。でも、わかってはいても、正直、尻すぼみという感は否めない。だいたい、犯人が手紙を落としたという偶然を劇場型捜査の成果に結びつけるのは、ちょっと強引すぎやしないか?

他にも、最後の最後で詰めの甘さが目立つのが、この小説の惜しいところ。凋落した植草と未央子の絡みが、最後に描かれないのはなぜだ。最初に登場した未央子には、植草のような小物など太刀打ちできないような独特のオーラがあったのに、後半の彼女にそれは皆無。ただの俗人になりさがってしまっている。

僕はてっきり、未央子は植草に操られているように見えて、実は植草を利用していたのだという悪女っぷりが最後に描かれ、植草がどん底まで転落するというラストを想像していたのだが。結局、未央子という女の正体がよくわからなかった。彼女のような強い人間でさえも俗人にしてしまうのがメディア、とでも言いたかったのだろうか。

未央子の他にも、元伝説の刑事・迫田、カリスマキャスター・韮沢、未央子のライバルアナ・早津など、うまく使えばどうにでも話を広げられそうなキャラクターがいながら、どうも活かしきれていない。迫田など、後半はすっかり影が薄くなってしまった。その消費性こそメディア、って、しつこいか(笑)。

最後の最後に、1章の事件被害者の父親・夕起也が登場し、巻島を責め立てる。バッドマン逮捕は、このエピソードの前にかすんでしまう。この展開、悪くはないのだけれど、やはり個人的には、バッドマンと巻島の対決の方をハイライトに持ってくる盛り上がりが欲しかった。

でも、娯楽性という点に目をつぶれば、このエピソードをしっかり描いたことで、物語のテーマはより深まったのも確かだと思う。夕起也に刺され、彼の妻・麻美から謝罪された巻島は、嗚咽を漏らしながら麻美に謝罪する。それは、6年前の彼にはなかった、誠実で正直な態度だった。

警察は、果たしてどれだけ被害者の身になって行動しているだろうか?事件を解決することに、本腰を入れすぎていやしないだろうか?6年前の巻島が、まさにそうだった。彼は、犯人逮捕しか考えていなかった。その結果、被害者家族の信頼を失い、捜査は失敗に終わった。

しかし、今度の巻島は違った。公開捜査が始まる前に、まず被害者家族のもとへ向かった。そして理解を得たうえで、捜査を行った。その捜査も、常に事件を解決するためという点を忘れずに展開した。そこが、ただ事件を面白がっていた植草との、決定的な違いだった。だから、捜査の過程で巻島バッシングが広がっても、被害者家族たちはそれを煽ったりはしなかった。そして、捜査は成功をおさめたのだ。小説は、最後に被害者家族のひとりが巻島に礼を伝える場面を描き、幕を閉じる。

事件は、決して警察のものではない。あくまでも、被害者のものなのだ。

作者の問題提起の矛先は、メディアへも向かう。
メディアは、ただ物事を表層的にしか捉えようとしない。そして、表面上の発言や出来事に翻弄され、右往左往するのだ。巻島の記者会見もそうだ。確かに巻島にも非はあったが、果たして誰が彼の発言の裏にある悔いや悲しみに気付いていただろう。それを知る読者には、メディアの凶暴性だけが際立って見える。
バッドマン事件も同じだ。ライバル局は別として、共演者である韮沢や早津でさえも、巻島の真意に気付けず、次第に距離を置くようになる。

凶悪事件に対する、メディアの過剰で軽率な反応。しかし、それを引き出しているのは、結局のところ、僕たち情報の受け手側なのだろう。受け手は、常に刺激的な話題を欲している。

こういう刺激的な小説が書かれたことが、その何よりの証拠かもしれない。
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by inotti-department | 2005-08-30 18:07 | book
法月綸太郎『生首に聞いてみろ』 ~”このミス!”制覇はダテじゃない~
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満足度 ★★★★★★★★☆☆(8点)

法月綸太郎・著
『生首に聞いてみろ』
2004、角川書店


「このミステリーがすごい!」という本を知っているだろうか?

簡単に説明すると、その年1年間に出版されたミステリー小説のランキングを発表する本である。
宮部みゆきや横山秀夫など、人気ミステリー作家の新作から、新進気鋭の若手作家の傑作ミステリーまで、幅広い作品がランキングに名を連ねる。かなりしっかりと集計を取っているので、このランキングに対する書店・読者の信頼度は年々高くなってきている。
本屋さんで、「このミス」のトップ10にランクインした作品を集めてコーナー展開しているのを目にしたことがある人も多いのではないだろうか?

さてさて、その「このミス」2005年版の栄えある第1位に輝いたのが、法月綸太郎の『生首に聞いてみろ』である。

実を言うと、この作家、名前は辛うじて聞いたことはあったが、実際に本を手に取ったのははじめて。にもかかわらず、読んでみようと思ったのは、要するに「このミス」1位だったから。やれやれ、なんたるミーハー(笑)

でも、「このミス」の上位に食い込んでくる作品って、いざ読んでみると、やはりそれぞれ読み応えがあって面白い。だから、とりあえず1位の作品は読んどけ!みたいなところが、私の中にはあるのだ。

さて、簡単なあらすじ。
作家で探偵の法月綸太郎は、知り合いの翻訳家・川島敦志からある調査を依頼される。その内容は、「先日病気で死んだ敦志の兄・伊作が生前に制作した彫刻像の首が何者かによって切られてしまった。この像は、伊作の娘・江知佳をモデルにした”人体直取り彫刻”であり、首を切られたのは江知佳に対する殺人予告である可能性があるので、調査してくれ」というものだった。敦志は、犯人は江知佳のストーカー・堂本ではないかと疑う。一方、綸太郎は、事件のカギは16年前にあると睨む。伊作と妻・律子の離婚。その原因となったとみられる、律子の妹・結子と伊作の不倫。伊作の子を妊娠し、自殺した結子。その半年後の、結子の夫・各務と律子の電撃再婚。次第に見えてくる事件の裏側。そんな中、行方不明になっていた江知佳の生首が発見される。さて、犯人はいったい誰?そして、16年前、伊作ら4人に何があったのか?

と、前半のあらすじを書いてはみたものの、残念ながらこの小説が面白くなるのはこのあと。本当なら、その後の展開をもう少し細かく紹介したいのだが、なにぶん物語の展開がものすごく緻密で入り組んでいるので、長くなってしまうのでここでは割愛する。(なお、詳しいストーリーは”ネタバレstory紹介”内に掲載しているので、知りたい方はそちらを参照してほしい。)

正直に言って、前半はもうひとつ話に乗っていけなかった。人体直取り彫刻や、川島一家の複雑な人間関係の説明が続き、なかなか事件の本筋が見えてこない。というより、事件そのものが、彫刻の生首が取れていたということだけなので、話の焦点が見えてこないのだ。

しかし、江知佳の生首が発見されるあたりから、話が俄然面白くなってくる。そして、真相が明らかになったとき、一見退屈に思われた前半が、実は全て伏線だったことに気付かされる。石膏像の作り方、敦志と伊作の絶縁、江知佳の謎の行動、などなど。

とにかく、ストーリーの進め方が、本当に巧い。全てを計算し尽くしたうえで、書いているのだと思う。ゴールをしっかりと見定めながら、いろいろなエピソードを小出しにしていく。

綸太郎が堂本の隣人だと思っていた人が、実は変装した堂本だったという部分もそのひとつ。そして、彼の手には大きなトートバッグ。中身は江知佳の生首だったのか!?と思わせておいて、実は石膏像の生首。
また、各務家訪問の場面もそうだ。各務の母親を名乗る女性の正体は、実は律子。しかしその律子の正体も、結局は律子になりすました結子だったのだ。

登場人物ひとりひとりの謎の行動も、最後には全て説明されるから、読み終えたあとに気持ち悪さがひとつも残らない。最後の「義弟」のエピソードなども、出来すぎだとは思うけれど、物語の締めくくりとしては見事だと思う。決して派手さはないけれど、全てを読み終えて振り返ってみると、その見事なまでに緻密な構成には、ただただ舌を巻くほかない。

2005年版「このミステリーがすごい!」第1位獲得。それも納得の、堂々たる本格ミステリーの傑作だ。

ミステリーらしいミステリーが読みたいなーと思っている方に、ぜひオススメ。
パズルがはまっていくような精巧なミステリーが読みたいなーと思っているかたには、さらにオススメ。
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by inotti-department | 2005-08-19 01:14 | book
伊坂幸太郎『死神の精度』 ~文体の魅力。いま、最も注目の作家~
満足度 ★★★★★★★★☆☆(8点)

「一番好きな作家は?」と聞かれると、少し前までは迷わず「村上春樹」の名前を挙げていた。
他に挙げろと言われれば、東野圭吾、沢木耕太郎あたりの名前がまず浮かぶのが常だった。

しかし今年に入り、ひとりの作家との衝撃の出会いがあった。それにより、この問いに対する答え方にも変化が生じることとなった。
その作家とは、伊坂幸太郎。

デビュー作『オーデュボンの祈り』を読んで、何とも表現できない不思議な面白さに魅了されたのがそもそもの始まり。それから、発刊順に片っ端から読み漁った。いまのところ読んだ7冊、1冊たりともハズレなし(今後、1冊ずつ紹介していきたいと思ってますので、お楽しみに)。

ここで、伊坂作品はじめての感想レポートということで、簡単にこの作者の魅力を書いておきたい。伏線を張り巡らせ、最後にそれをまとめあげる、練りに練った緻密な構成。すっとぼけた登場人物が次々登場する、魅力的なキャラクター描写。ユーモアがありウィットに富んだ会話の面白さ。挙げればキリがないほどの魅力に溢れているが、ひとつ挙げろと言われれば、私は迷わず「文体の魅力」を挙げたい。

とにかくこの作家、文章が面白い。テンポもいいし、言葉の使い方もうまい。そして何よりもスゴイのが、なんてことのない文章なのに、読んでいてクスッと笑わされること。特に、デビュー作の
『オーデュボンの祈り』や『チルドレン』は最高に笑える。物語の語り部たちが翻弄されるさまが、もうおかしくて仕方ないのだ。私は、最初に『オーデュボン』を読み始めてすぐに、「あ、この人の本は全部読もう」と決意した。文体が面白い人の小説は、極端な話、ちょっとぐらいストーリーが退屈でも読めてしまうのだ。文章の1行1行を読むだけで、幸せな気持ちになれるから。そんな風に思ったのは、村上春樹以来のことだった。

さて、話を戻そう。
「あー、もう全部読んじゃったなぁ。早く新作出ないかなぁ」
そう思ってたところ、待望の最新作が発売された。それが『死神の精度』だ。

本書の主役は、「千葉さん」という名の死神。彼の仕事は、8日後に事故や事件で死ぬことになっている人が、死ぬにふさわしいか否かを1週間かけて調査すること。調査対象と接しつつ、彼(彼女)といろいろな話をしながら、その死に関して「可」もしくは「見送り」のどちらが適切かを判断し、報告するのである。

ちなみに、千葉さんの性格はいたってクール。人間という存在を、常に1歩引いた視点で見ている。そのため、調査の結果、ほとんどの対象に対して「可」の結論が出される。「この人、死ぬにはかわいそうだなぁ」などという同情や憐れみという感情は、千葉さんの中には存在しない。彼は、それが仕事であるから一生懸命に対象と接するだけであって、人間の死には全く興味がない。彼が興味があるのは、音楽だけ。人間社会に1週間いられると、好きな音楽をたくさん聴ける。それが、彼が1週間という時間をかけて調査をする本当の理由なのだ。

そんな千葉さんが遭遇する、6人の調査対象たち。
本書は、彼らと出会ったことで千葉さんが遭遇する、ちょっと不思議な6つの物語を集めた短編集である。なんだか、すごく面白そうでしょ?そのとおり、これが面白いのです!

<以下の感想、ネタバレ含みます。未読の方は、ご注意ください>

オープニングを飾るのが、タイトルにもなっている『死神の精度』。
さっそくネタバレしちゃうと、これ、いきなり「見送り」の結論が出される話なのだ。

だから、なんだかんだ死が「見送り」になるパターンが多いんだろうなぁ、などと勝手に予想してしまうのだが、それは甘い。6つ全部読んでわかることなのだが、結局、「見送り」になるのは最初のエピソードだけ。あとの5つは、全部「可」。つまり、調査対象たちはみんな死んでしまうというわけ(死ぬシーンは描かれないものが多いが)。

この『死神の精度』の終わり方が、とてもユニーク。その人を食ったようなユーモアに満ち溢れたオチは、まさに伊坂ワールド。音楽というのは、伊坂作品の重要なキーワードだ。この人、どうやら「音楽は人を救う」と本気で信じているようだ。

そのあとの4つも、それぞれ個性的で面白い。

カリスマ性をもったヤクザとの交流を描いた『死神と藤田』。藤田は、親分の裏切りもあり、敵に囲まれて絶体絶命の状況になる。藤田を尊敬する子分の阿久津は願う。「藤田さんが負けるわけがない!」でも、藤田が死ぬことは決定している。千葉さんが「可」の報告をしたから。でも、その日は千葉さんが現れてまだ7日目。つまり、藤田が死ぬのはもう1日あと。ということは、藤田は今日は死なない。勝つのだ。しかし、藤田の勝利は描かれず、そこで物語は終わる。そのエンディングが、最高にカッコイイ。

『吹雪に死神』は、閉ざされた洋館で次々に人が死ぬ、本格ミステリ風短編。オチがくだらなくて笑える。毒を使って殺そうとした女が、なぜか死なない。なぜ?それは、その毒入りの料理を、千葉さんが代わりに食べたから。死神は、死なないのだ。ヘンな話。

『恋愛で死神』は、個人的に大好きなエピソード。隣人の朝美に片想いした青年・荻原が、朝美をストーカーから守って殺されてしまう話。人間の恋愛を、不思議そうに見つめる千葉さんの視点が面白い。切ないけれど心が温まる、素敵な恋愛物語。最後、思わず嘘をつき、荻原の死を朝美に隠す千葉さん。千葉さんも、2人の恋愛を、クールを装いつつも微笑ましく応援していたのかもしれない。

殺人犯・森岡とともに東北をドライブする『旅路を死神』。道中で出会う老夫婦やセダンの何気ないエピソードを、最後の千葉さんの推理に活かすテクニックは見事。人生を川にたとえ、自分はいま地味な下流にいると話す森岡に「下流も悪くなかった」と語る千葉さんのセリフがいい。後味の良さもグッド。

この4つのエピソードは、それぞれ個性的だが、大筋は同じだ。すべて、ある意味においてはハッピーエンド。しかし、千葉さんの結論は「可」であるため、主人公たちはみな死を迎える。どうせ1週間後には死ぬのに、小さいことで悩んだり喜んだりしている人間たちを不思議そうに見つめる千葉さん、というのが基本的スタンスになっている。そして、どの話でも、常に雨が降っている。千葉さんが仕事をするときは、いつも雨が降るのだ。千葉さんは、まだ晴天を見たことがない。

ここまで読んだ時点で、この小説は、人生には必ず終わりがくるという事実を忘れて生きている人間の滑稽さをシニカルに描いたものだと判断した人もいたかもしれない。それは、間違いではない。しかし、それだけでは、この小説の真のメッセージを読み解いたことにはならないと私は思う。

それを教えてくれるのが、最後の『死神対老女』だ。このエピソードだけは、少し異質なものになっている。そして結果的にこのエピソードは、6つの短編をつなぐエピローグの役割を果たす。これを読み終えたとき、読者は、本書が短編集ではなく、実はひとつの長編だったことを知ることになるのだ。

老女は、千葉さんと会ってひと目で、彼が人間でないことに気付く。そして、彼が自分の死を見届けにやって来たこときも見破るのだ。

このエピソードと他の5つのエピソードの決定的な違いは、この老女が死を覚悟して最後の1週間を過ごす点にある。他のエピソードの主人公たちは、みな自分の死が近いことなど夢にも思わず、ジタバタと必死に生きて、そして突然の死を迎える。一方、老女は、人生の最後にまだ1度も会ったことのない孫と対面する。そして、悔いのない状態で、この世を去るのだ。

これを読み終えたとき、「人はいつか必ず死ぬ。ならば、そのとき悔いが残らないように精一杯生きろ」というメッセージが自然と浮かび上がってくる。そして実は、そのメッセージは、他の5つのエピソードの中にも隠されていたのである。というよりも、5つのエピソードのどの主人公たちも、精一杯最後まで生きたのだ。どのエピソードも、主人公が死ぬにも関わらず、後味がすこぶる良いのはそのためだろう。

そして、その全てのエピソードを通過して達した終着点が、最後の老女の物語。精一杯生きて、たくさんの死を見届けて、そして到達する悟りの境地。この老女のような死に方をするために必要な生き方こそ、藤田であり、荻原であり、森岡のような生き方なのだ。そう、全ての物語が、ここではじめて繋がる。エピソード1で死を見送られた歌手の卵が最後のエピソードで歌手になっていることが判明し、また老女の正体が実はエピソード4で登場した朝美だったというオチも、そのことを象徴している。

最後に、千葉さんはついに晴天を見ることができる。それは、老女が死を覚悟して、死神の存在を正面から受け入れたからかもしれない。もう千葉さんは、雨雲に隠れてコソコソと調査する必要がなくなったから。そして同時にその青空は、人間という存在を祝福する、優しくて温かい賛歌のようにも私には感じられた。
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by inotti-department | 2005-08-12 02:06 | book
   
映画・小説・音楽との感動の出会いを、ネタバレも交えつつ、あれこれ綴っていきます。モットーは「けなすより褒めよう」。また、ストーリーをバッチリ復習できる「ネタバレstory紹介」も公開しています。
by inotti-department
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