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当ブログでは、「あの映画(小説)、一度観たんだけど、どういう話だったかが思い出せない・・・」とお困りの方のために、映画(小説)のストーリーを完全に網羅したデータベースを公開しております。詳しくは、カテゴリ内の「映画(小説)ネタバレstory紹介」をご参照ください。なお、完全ネタバレとなっていますので、未見の方はくれぐれもご注意ください。
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『ゆれる』 ~今年度を代表する傑作!!~
e0038935_20013.jpg満足度 ★★★★★★★★★☆(9点)

『ゆれる』(2006、日)
   監督 西川美和
   出演 オダギリジョー 香川照之

東京でカメラマンとして活躍している猛は、母の1周忌で久しぶりに故郷へ戻る。母親の葬儀にすら参列しなかった猛を父親は歓迎しないが、唯一兄の稔だけは温かく迎え入れる。父のガソリンスタンドで働く稔は、同僚の智恵子に想いを寄せており、いずれは結婚したいと密かに願っていた。しかし、実は智恵子は猛の元恋人。東京に出るときに捨てていった女だ。故郷で再会した2人は、再び関係をもってしまう。その翌日、猛、稔、智恵子の3人で渓谷へ遊びに行く。各々の想いが交錯する中、突然事件は起きた。吊り橋を渡っていた智恵子が、転落死してしまったのだ。そのとき、吊り橋の上には、稔の姿があった・・・。


エンドロールが終わって場内が明るくなっても、僕はしばらく立ち上がることが出来なかった。ズシリと心に重いものが残っている感覚を、しばらくそのままにしておきたかったのだ。また1本、忘れられない傑作と出会えた。そんな感触があった。

物語自体は、決して派手なものではない。しかし、その行き詰るほどの緊張感といったら。「1秒たりとも見逃せない」という言葉がこれほど当てはまる映画もそうそうないだろう。全てのセリフ、全ての表情、全ての映像に、様々なメッセージが込められている。ワンカットたりとも手を抜いていない、製作者の情熱にはただただ脱帽だ。

ある兄弟の内面をとことん深くまで描いた人間ドラマである。その深さが、もう半端ではない。温厚で朴訥とした兄と、クールで自由人の弟。表面的にはまったくタイプの違う2人の男たちは、表面的には確かな愛情で繋がっているように見えた。最初は。

どんな人間の心の中にも、様々な感情が渦巻いているものだと思う。「○○さんは○○な人だ」というひとことで人間をとらえることなど、本当は不可能なのだ。この映画の兄弟も同じ。愛情、怒り、憎しみ、嫉妬、羨望。兄弟だからこそ生まれるそれら感情の全ては、彼らの心の中の一部分にしか過ぎないし、でも同時にその全てが確かに存在する感情でもある。人間の感情とは、本当に複雑なものなのだと思う。

兄弟として過ごして30年。事件をきっかけに、はじめて交錯する互いの本音。その過程で、彼らが表面的に築きあげてきた関係性は完全に崩壊してしまう。それはすごく悲しいことなのだけれど、でも僕は、それはそれでよかったのではないかと感じた。互いに心の底では思ってることがあるのに、それを隠して上っ面だけの関係を守っていたって、それは真に正しい関係とはいえない。思いっきり叫んで、思いっきり吐き出して、2人は改めて互いの存在の意味を感じることができたのではないだろうか。まぁ、その過程もまた本音と嘘が入り混じっているので、「ケンカして仲直り」なんて単純な世界ではないのだけれど。

一級品の人間ドラマに、サスペンスとしての味付けが巧みに加えてあるのがこの映画の憎いところ。「事件か?事故か?」「弟はその瞬間、何を見たのか?」そんなミステリー要素を入口に、上質な裁判劇としても実に見ごたえがある。兄弟の葛藤が、裁判という第三者によって暴かれていくのがまた哀しい。智恵子と猛の関係が検察によって語られた瞬間のあの哀しみといったら、僕はもう瞬きすら出来なかった。

若き女性監督、西川美和。これは恐るべき才能の登場だ。さっそくデビュー作の『蛇イチゴ』をチェックせねばならない。これが監督2作目とは、今後が楽しみな監督だ。

演出も脚本もパーフェクトだが、最も賞賛すべきはそのキャスティング能力かもしれない。オダギリジョーと香川照之。互いを思いっきり意識した演技合戦。これぞ、映画の醍醐味というものだ。互いの演技が互いの演技を引き出していると思うので、どちらが優れているとかそういうことは語るべきではないと思う。ということは百も承知で言うが、僕は香川照之という俳優の才能に鳥肌が立った。人間の心の怖さを、表情ひとつで、背中ひとつで、見事に表現してみせた。

ラストカットをどう見るか。これは観る人ひとりひとりに委ねられていると思うけれど、少なくとも僕には、確かな希望が感じられた。「あの橋を渡るまでは、兄弟でした。」というのはこの映画のコピーだけれど(とても秀逸なコピーだと思う)、僕は、「あの橋を渡ってはじめて、彼らは本当の兄弟になった。」という風に思うのだ。
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by inotti-department | 2006-07-24 20:57 | cinema
Bank Band『to U』 ~これは久々に名曲です~
e0038935_19511733.jpgBank Band 『to U』

久しぶりに音楽の話題。
今週の水曜日に発売されたこのシングル。
久々にまぎれもない名曲と出会った、そんな感じです。

もともとBank Bandというのは、Mr.Childrenの桜井和寿とプロデューサーの小林武史が立ち上げたバンドで、その収益の全ては環境保全活動に充てられている。

で、この『to U』という曲。Bank Bandは基本的に全てカバー曲しか歌わないのだけれど、唯一のオリジナル曲がこの歌だ。いわば、Bank Bandのテーマ曲と言えるのかもしれない。この曲には、女性ボーカリストのsalyuがボーカル参加していて、salyuが歌うパートと桜井が歌うパート、そして2人がハモるパートで構成されている。TBSの「NEWS23」のテーマ曲にもなっているので聴いたことのある人も多いかもしれない。

これはいい曲だなぁ。ミスチルの新曲『箒星』も好きな曲だけど、この『to U』の感動には及ばない。ちなみに作詞が桜井和寿で、作曲が小林武史。なるほど、小林武史っていう人はこんなに良いメロディを生み出せる人なのだなぁと、その凄さを再確認。salyuパートと桜井パートではキーが全然違うので、この曲は転調を何度も繰り返すのだが、その転調部分で全く違和感を感じさせない。それどころか、転調をうまく活かしながら、曲に壮大さを生み出すことに成功している。

桜井和寿の詩も素晴らしい。ここに詩を掲載できないのが歯がゆいぐらい(ネット上に詩を無断で掲載することは禁止されていたはず、たしか。)、頭から尾っぽまで素晴らしいメッセージが詰まっている。優しくて、温かくて、でも、すごく力強い。そのメッセージは、世界中に向けられていると同時に、すぐ隣の大切な人に向けて送られたものでもある。人によっていろんなイメージで受け止められる詩だと思うけれど、人と人は確かに繋がっているんだっていうことがすごく前向きに伝わってくる。

ボーカルも2人とも違った個性があって良いと思う。正直に言うと、2人の声質が合っているとは思わないし、ハモリ自体にはあまり魅力を感じない。どちらかというと、それぞれが1人で伸び伸びと歌っている部分の方が、スンナリ聴ける。でも、あんまり息の合ったデュエットっていうのもなんか嘘くさいし、これはこれでいいんじゃないかな。2人に、「合わせなくちゃ!」っていう意思があんまり感じられないのが楽しい(笑)。

ということで、とてもオススメの曲ですので、ぜひぜひ1度聴いてみてください。そんなにプロモーションを懸命にしていないのでどこまでセールスが伸びるかはわかりませんが、間違いなく2006年を代表する1曲になると思います。
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by inotti-department | 2006-07-23 20:18 | music
東野圭吾『容疑者Xの献身』 ~愛は論理を破綻させる~
e0038935_10382974.jpg満足度 ★★★★★★★★☆☆(8点)

『容疑者Xの献身』

  東野圭吾・著
  文藝春秋、2005

顔も指紋も判読できない身元不明の他殺体。現場付近に落ちていた自転車に残された指紋から、被害者は富樫という男と判明する。富樫が殺される直前、離婚した元妻・靖子を探していたことから、警視庁の草薙は靖子に疑いの目を向ける。しかし、靖子には事件当夜のアリバイがあった。捜査が行き詰る中、靖子の隣人の高校教師・石神が大学の同窓生であることを草薙は知り、やはり大学の同窓生で親友の物理学者・湯川にその話をする。大学時代、同じ天才同士として最大のライバルであり理解者であった石神に会うため、湯川は石神の家へ向かう。この殺人事件に、石神が大きく関与していることなど知らずに・・・。


上のあらすじを読んで、「おいおい、いきなりネタバレしてんじゃねーよ!」とツッコまれた皆さん、たいへん失礼いたしました。でも、ご安心ください。このあらすじだけでは、なんのネタバレにもなっていませんので。直木賞受賞作にして、「このミステリーがすごい」第1位受賞作品。それも納得の、読み応えタップリのミステリー小説である。

僕はミステリー研究家ではないので、こういうパターンのミステリーを何と呼ぶのかは知らないが、わかりやすく言えば「古畑形式」であり「コロンボ形式」。そう、殺害シーン自体は、小説の冒頭でいきなり詳細に描かれるのだ。もちろん、犯人もその時点で判明する。

そこに、刑事が登場する。捜査は進み、容疑者は絞りこまれ、犯人に厳しい捜査の刃が向けられる。しかし、証拠がない。アリバイもない。捜査が難航する中、ひとりの男が現れる。それが、この小説の謎解き役である、物理学者の湯川だ。実は、この湯川が東野作品に登場するのはこれが3度目。「探偵ガリレオ」「予知夢」と続く、湯川シリーズの第3弾なのだ。

動機に関しては序盤で読者にわかるようになっており、このミステリーの最大の焦点は、靖子をサポートする石神が企てたトリックだ。あらゆる状況が、靖子の事件への関与を指し示しているのに、いっこうに捜査が進展しない。それを阻むのは、アリバイトリック。靖子のアリバイは、決して完璧なものではない。なのに、崩せない。なぜだ?

天才数学者・石神からの挑戦状に、天才物理学者・湯川が挑む。もちろん、警察もただそれを傍観しているわけではない。決して天才ではないが刑事としての優れた嗅覚をもつ草薙も、独自の視点で全容解明にチャレンジする。この3人の緊張感ある関係性がすごく面白い。湯川と石神が絡むシーンになると、「ヤバイよ石神さん、バレちゃうよーー」と、事件の犯人を知っているこちらとしてはハラハラしっぱなしだ。

しかし、謎解きは一向に進まない。真相を知っているはずの読者側にも、次第に違和感が出てくる。「なんかおかしいぞ、この事件?」同様に湯川も、事件の本質に気付きはじめる。「この事件の焦点は、アリバイトリックではない。アリバイに目を向けさせるのは、石神の作戦だ!」

ここから怒涛のクライマックスへと突入していく。その真相に関しては、もちろんここではネタバレしない。ただ、ひとつ言えるのは、「衝撃!」とか「驚愕!」とか、そういった類のものではないということだ。勘のいい人なら、薄っすら気付けた人もいたのではないだろうか。極めてシンプルだが、見事に警察と読者の盲点をついたトリックである。

そして、その真相を知ったとき浮かび上がってくる、石神の想い。あまり喋りすぎるとネタバレになってしまうので難しいのだが、そのときはじめてこの小説のタイトルの意味が理解できるようになる。

ただ、ここでひとつだけこの小説を欠点を挙げるとすれば、様々な人間からの愛情を一身に受ける靖子というキャラクターに、全く魅力が感じられないということがあると思う。弱くて、身勝手で、ある意味においては最も人間的な人物とも言えるこの靖子という女性。でも、それも作者の作戦のうちかな、という気もする。それによって余計に、物語のやるせなさ、切なさが増しているとも言えるからだ。

石神がたてた計画は、完璧だった。完璧なまでに、論理的なものだった。しかし、その論理は、「石神の愛情」と「湯川の友情」と「靖子の葛藤」によって、少しずつ破綻していく。どんな完璧な論理も、人間という不完全な生き物のハートの揺れによって、打ち砕かれてしまうのだ。それが、なんだか切なく、でも、不思議と心地よい。

あまりにも切ないラストシーンをどう読むか。全員にとって悲しい結末を迎えたことは間違いない。でも僕は、「これでよかったんじゃないか」って、そんな風に思った。
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by inotti-department | 2006-07-21 11:23 | book
『カーズ』 ~ピクサーのメッセージはいつも正しい~
e0038935_21535315.jpg満足度 ★★★★★★★★☆☆(8点)

『カーズ』(2006、米)
   監督 ジョン・ラセター
   声の出演 オーウェン・ウィルソン 
          ポール・ニューマン

マックイーンは、圧倒的なスピードを誇る若き天才レーシングカー。実力は申し分ない彼だが、自己中心的でワガママな性格なため、友達と呼べる者はひとりとしていなかった。世界最高峰のレース「ピストンカップ」を1週間後に控え、レース会場であるカリフォルニアへと向かう途中、マックイーンは見たこともないサビれた田舎町に迷い込む。「ラジエーター・スプリングス」という名のその町は、地図からも消された町だった。マックイーンは、ひょんなことからその町に閉じ込められてしまう・・・。

『トイ・ストーリー』『モンスターズ・インク』など、常に最高のアニメーション映画を作りつづけているピクサー。そんなピクサーの最新作は、ズバリ「車」が主人公。いや、主人公どころか、映画の世界には車しか登場しない。そう、そこは、人間ではなく車たちが生活する世界なのだ。

個人的に、実は車ってあまり得意じゃない。自分で乗らないっていうのもあるし、乗り物酔いするからもともと好きじゃないっていうのもあるし、友達なんかがマニアックな車種の話なんかしてても、これっぽっちも会話に入っていけない。

だから、今度のピクサーのテーマ(キャラクター)が「車」で、しかもタイトルがそのままズバリ「カーズ」だと聞いたときには、いくらピクサー作品で僕が最も大好きな『トイ・ストーリー』のラセター監督の6年ぶりの監督作だとはいえ、あまり興味が沸かなかった。

そうはいっても、いつも決して僕の期待を裏切らないピクサー作品。こうなれば地の果てまでもお付き合いしますよ!と言わんばかりの決意で、映画館へと向かった。

結論。やっぱり面白い!
映画を観て車を好きになったとは言わないけれど、『カーズ』に登場する車たちのことは大好きになった。

スピード感満点のレースシーンをはじめとする映像の素晴らしさ。顔があってペラペラ喋る車たちというメチャクチャな設定が全く気にならないキャラクターたちの魅力。いつものことながら、そのアニメーションとしてのクオリティの高さにはただただ感動してしまう。

でも、僕がいつも、そして今回も感銘を受けたのは、そのメッセージ。ピクサー作品のメッセージって、本当に普遍的で、温かくて、僕はいつも子供のように感動してしまうのだ。

今回の『カーズ』も、いろいろな大切なことを僕たちに教えてくれる。「ひとりのほうが物事うまくいく場合もある。でも、本当にそれでいいの?」とか、「高速でビュンビュン進むのもいいけれど、たまには脇道にそれてゆっくり歩いてみない?」とか、「勝つことよりも大切なことって何だろう?」とか。

僕が将来、子供を持ったら、ひたすらピクサーの作品を見せまくろうと思う。このメッセージに洗脳された子供は、そうそう間違った人生を送ることはないんじゃないだろうか、なんて思うのだ。唯一心配なのは、アニメオタクになってしまうことぐらいかな(笑)。ピクサーのメッセージは、いつも正しい。

前半はややモタツキ感もあるが、中盤以降はアクビのヒマすらない怒涛の展開。ストーリーの運び方が、本当にウマイ。クライマックスのレースシーンの緊張感&爽快感&高揚感は、もう圧巻のひとこと。エンドロールのあとのオマケも楽しいので、お見逃しなく。
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by inotti-department | 2006-07-17 22:20 | cinema
伊坂幸太郎『砂漠』 ~やっぱり面白い!伊坂流青春小説~
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満足度 ★★★★★★★☆☆☆(7点)

『砂漠』
 伊坂幸太郎・著
 2005年、実業之日本社


大学に入学した北村は、4人の友人との運命的な出会いを果たす。ヤマセミのような髪型の鳥井、世界平和のためにひたすら麻雀のピンフ(平和)をあがりつづけるという変わり者・西嶋、超クールな美女・東堂、穏やかな性格ながら超能力の持ち主・南の4人だ。ひたすら麻雀に明け暮れたり、大学生ならではの素敵な恋愛をしたり、謎のホスト軍団と戦ったり、超能力を使って嫌味な評論家をやっつけたり。彼らの大学生活は、あっという間に過ぎ去っていく。


友情、恋愛、合コン、麻雀・・・。
「これぞ青春小説!」とでも言うべきキーワードがこれでもかと並べてしまうと、「なんだよ、伊坂幸太郎にしては普通っぽいなぁ」などと思われるかもしれない。でも、そこはご安心ください!決して平凡な駄作など書かない伊坂幸太郎、この『砂漠』もやっぱり一味違う”伊坂流”青春小説となっている。

いろいろな面白さがある小説だが、1つ挙げるとすれば、やはりキャラクターの魅力ということになると思う。主人公の5人それぞれが、それぞれに素敵な個性を持っている。彼らの他愛の無い会話を読んでいるだけで、こちらとしては微笑ましい気持ちになれるのだ。

特に西嶋が面白い。「世界平和のために、ピンフ(麻雀の役の名前。ちなみに漢字で書くと”平和”)をあがりつづける」と豪語したり、”プレジデントマン”なる連続通り魔男を支持したり。正直言って考え方はメチャクチャで、おそらく読む人によっては全く好きになれないキャラクターかもしれないけれど、僕には彼のデタラメな考え方がとても痛快で心地よかった。もちろん、彼の良さを生み出しているのは、語り部の北村はじめ、彼のデタラメさを温かく受け入れる親友4名の寛容さがあってのものなのだけれど。

物語は、奇妙ながらも不思議と心に残るエピソードを積み重ねながら、「春」→「夏」→「秋」→「冬」と進んでいく。4章目の「冬」の冒頭で、主人公の北村が「大学の1年間なんてあっという間だ」と呟くシーンがあるが、自分の大学時代を振り返っても、確かにそうだったなぁと思う。ところが、この何気ないセリフの背景には、実は小さなミステリー的仕掛けもあったりして・・・。これ以上触れるとネタバレになるので避けるが、本格的なミステリー作家ではないが、伊坂作品には必ず読者をアッと驚かせる小さなミステリーが潜んでいて、それも彼の小説を読むひとつの楽しさになっている。

伏線を張りながら、終盤に思わぬ形でそれを活かす持ち前の巧みなストーリーテリングは今回も健在。謎の格闘家しかり、南の超能力しかり。物語全体にちりばめられた小さな秘密も含め、オーソドックスながらも”もう1度読み返したくなる小説”にきちんとなっている。

大学時代って、本当に不思議な時間だ。いま振り返っても、「あの頃は良かったなぁ」とも思うし、「あの頃は何もしていなかったなぁ」とも思う。さらに「もう1度大学時代に戻れるなら、こういう風にするのになぁ」っていう思いもあるけれど、たぶん、ナンダカンダいって、僕は何度大学生になれたとしても毎回同じような過ごし方をするような気がする。

すごく時間があって、すごく自由で、でも決してただの子供ではなくて、けれどもピンと背筋の伸びた完璧な大人ではない。たぶん、大学時代(あるいは、それに準ずる時期)って、その人のキャラクターが確立される時でもあり、同時にその人のキャラクターが生活スタイルの違いとなって如実に現れる最初の時期のような気がする。

そういう意味じゃ、西嶋にしろ、鳥井にしろ、この小説の登場人物たちは、とても素敵な過ごし方が出来た人たちだと思う。小説の中で描かれているのは、彼らの大学生活のごくごく1部のエピソードに過ぎないのだけれど、でも、彼らは確実に前に進んでいる。そして、小説のクライマックスの5人は、明らかに、オープニングの5人よりも光輝いている。いや、西嶋は変わっていないかな(笑)。

個人的な本音を言うと、伊坂幸太郎には、僕はもっとハイレベルなものを期待してしまう。でも、そうはいっても、この『砂漠』も一級品のエンタテインメント小説であることは間違いない。
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by inotti-department | 2006-07-15 23:08 | book
『雪に願うこと』 ~そして今日も人生はつづく~
e0038935_2320774.jpg満足度★★★★★★★☆☆☆(7点)

『雪に願うこと』(2006、日)
   監督 根岸吉太郎
   出演 伊勢谷友介 佐藤浩市

北海道・帯広のばんえい競馬場。東京からやって来た学は、なけなしの全財産をウンリュウという名の馬に注ぎ込むが、あえなく惨敗。無一文になり、ばんえい競馬の調教師をやっている兄の威夫を訪ねる。会社を興すために母親を置いて東京へ出て行った弟の13年ぶりの帰宅を、威夫はそっけない態度で迎える。威夫は、厩舎を手伝うことを条件に家に学を住ませることにする。しかし、学は、実は東京で事業に失敗し、会社も家族も失ったことを兄に言えずにいた・・・。


こんなに真面目な、直球勝負の映画を観たのは、なんだか久しぶりな気がする。家族を、仕事を、つまりは人生を、丁寧に誠実に力強く描いた良作である。

ストーリーだけじゃなく、映像に関しても同じことが言える。北海道の雄大な景色を、そして馬と人間が共生している厩舎の豊かな息遣いを、決して派手さはないがこれもまたやはり誠実なカメラワークできちんと表現している。

こういうストレートな映画には、高い実力を持った俳優の存在が不可欠なわけで、この作品に関していえば主人公の兄である威夫を演じた佐藤浩市の好演がそれにあたる。ウマイウマイとは思っていたけれど、この俳優は本当にウマイ。

威夫の弟に対する屈折した愛情。「どの面さげて・・・」と表面的には悪態をつくが、実は裏では「うちの弟は東京で社長を・・・」と自慢に思っていたり。自慢に思っていたからこそ、ふぬけた状態になりさがっている弟の堕落ぶりが許せなかったり。かと思うと、次第に力強さを取り戻していく学を気に掛け、「戸籍をこっちへ移せ」と提案したり。このお兄ちゃんの懐の深さは、この映画全体の魅力に繋がっていると思う。

一方で、主人公の伊勢谷友介に関しては、健闘はしていると思うがやや物足りなさも残る。もちろん、主人公のクールなキャラクターの問題もあるのだが、セリフや表情への感情の込め方がどうもパンチ力不足なのだ。個人的には、学の変化を演技としてももっと的確に表現してほしかったと思う。ただ、彼にとっては、力のある俳優(佐藤浩市はもちろん、小泉今日子や吹石一恵も素晴らしかった)と同じ時間を長く過せたことが、きっと貴重な経験になっただろう。今後に期待。

この映画って、愚直なまでにストレートな映画なんだけれど、それでいて全然押し付けがましくないところがまた素晴らしい。例えば、兄弟と母親の関係、あるいはクライマックスとなるウンリュウのレースシーンなど、もっとベタベタに盛り上げようと思えばいくらでもやりようのあるシーンはたくさんあったと思う。でも、この映画は、無理に観客を泣かせようとはしない。あえて淡々と描くことで、人生のシビアさ、そして奥深さをいっそう際立たせることに成功している。

ひょっとすると人によっては、最後の終わり方に物足りなさを感じた方もいたかもしれない。「もっと号泣させてよーー!」っていう不満も、それはそれで正しい感想だと僕も思う。

でも、人生って、そんなに甘いものじゃない。ハッピーエンドの映画みたいに、「めでたしめでたし♪」なんていうキリのいい瞬間なんて、おそらく永遠に訪れない。ある戦いが終われば、また別の戦いが幕を開ける。その繰り返しが、人生なのだ。

根岸監督は、あのラストシーンに、そんな想いを込めたのではないだろうか。レースの結果がどうであれ、僕たちの人生はつづいていく。大切なことは、”今日も明日も走りつづける”ということなのだ。
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by inotti-department | 2006-07-08 23:57 | cinema
恩田陸『夜のピクニック』 ~”歩く”からこそ物語になる。~
e0038935_22562298.jpg満足度 ★★★★★★★☆☆☆(7点)

『夜のピクニック』

恩田陸・著
2004年、新潮社


「歩行祭」。それは、全校生徒が列を作り、夜を通して80キロただひたすら歩きつづける北高最大の一大イベント。受験を目前に控えた3年生の貴子は、ある1つの賭けを胸に秘めてこの歩行祭に臨んでいた。それは、3年間一度も話したことのないクラスメイト・西脇融と会話をすること。2人の間には、彼らだけしか知らないある秘密が隠されていた・・・。


全国の書店員さんが、最もお気に入りの本を1冊選ぶ『本屋大賞』。
2005年、その『本屋大賞』を制したのが、この『夜のピクニック』である。

この小説が、それだけたくさんの人から愛された理由。約400ページにわたる長編小説をあっという間に読み終えた僕には、その理由がすごくよくわかった。

『夜のピクニック』には、誰もが共感し、温かい気持ちになれる要素がたくさん詰まっている。全校生徒が1つの列を作って、夜を通して歩きつづける。そんな設定を前に、ノスタルジックな気持ちを覚えない人はほとんどいないだろう。さらにそこに、友達、恋愛、家族、幽霊といったなんとも魅力的なピースが重なりあってくるのだ。青春小説好きならずとも、もうたまらない設定だろう。

しかし、この物語、意外なほどに特別なことは何も起こらないままエンディングを迎える。いや、もちろん、細かいエピソードはいろいろあるのだが、物語全体を根底から揺さぶるような衝撃的な展開というのは一切ない。例えば、物語の最大の軸である”貴子と融の秘密”にしても、こちらが拍子抜けするほどあっさりと明らかになるし、要するにこの小説は、読者を驚かそうとか予想を覆そうとか、そういう意図は全く持っていない物語なのだ。

にもかかわらず、この『夜のピクニック』は、読者をグイグイと物語世界に引っ張りつづける。そして、一気にページをめくらせる。小説の中にたびたび登場する言葉を借りるならば、まさに、「ただ歩く、それだけのことが、どうしてこんなに特別なのだろう」ということになる。

ポイントは、”歩く”というところにあるのだと思う。例えばこれが”走る”=要するにマラソン大会であったならば、物語はまったく盛り上がらないだろう。ダラダラと歩きつづけるだけだからこそ、登場人物たちに”考える”、そして”話す”という気力が生まれるのだ。この小説の最大の魅力を挙げるならば、80キロの間に浮き沈みを繰り返す登場人物たちの”考える”過程と、真剣な打ち明け話からくだらない雑談までこちらも浮き沈みを繰り返す登場人物たちの”話す”過程を、実にリアルに誠実に描きつづけた点にあると思う。

物語は、2人の主人公、貴子と融が語り部となって進んでいくが、その視点は交互に入れ替わっていく。そして終盤、その視点が、とうとう1つに融合する。この流れがすごく自然で、決して派手さはないがとても感動的だ。

彼らとともに80キロを一緒に完走(完歩、か)した読者には、最後に、最高の読後感が待っている。
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by inotti-department | 2006-07-07 23:43 | book
『かもめ食堂』 ~ごはんと友達さえあればいい~
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『かもめ食堂』(2006、日)
   満足度 ★★★★★★★★☆☆(8点)
   監督 荻上直子
   出演 小林聡美  片桐はいり
       もたいまさこ

フィンランドの街の片隅にある「かもめ食堂」は、日本人のサチエが1人で切り盛りする食堂だ。おにぎりを筆頭においしい日本食を提供し、ゆっくりと食事を楽しんでもらいたいという願いで始めた食堂だが、オープン以来お客さんはからっきし。そんな「かもめ食堂」に、ついに第1号のお客さんが。彼は、日本語を巧みに操る”日本かぶれ”の青年。彼からガッチャマンの歌詞を尋ねられ答えられなかったサチエは、街で見かけたミドリという日本人女性に声を掛け、ガッチャマンの歌詞を教えてもらう。

長いこと更新していなかった、このブログ。
「よし、再開しよう!」そんな気持ちになったのは、この『かもめ食堂』を観たからだ。

本当にのんびりした映画だ。何か特別な出来事が起こるわけでもない。感動的なエピソードがあるわけでもない。でもなぜだろう、僕にはこの映画が、すごく特別なモノに感じられたのだ。

人と人が触れ合う。そこに美味しいごはんがある。たったそれだけのことが、どれだけ素敵なことなのか。この映画は、改めてそのことを教えてくれた。

たぶん、この映画がこんな風に僕の心に響いたのは、観たタイミングのせいもあったのだと思う。北朝鮮がミサイルを7発日本に向けて発射した翌日という、そのタイミング。

僕がそのニュースを知ったのは、ちょうどワールドカップの準決勝を放映していたNHKに映し出されたニュース速報によってだった。寝ぼけ眼でドイツを応援していた明け方の僕の心を揺さぶるのに、そのニュースの衝撃度の大きさは十分すぎるほどだった。

決して世界は安泰ではない。大丈夫ではない。その瞬間、僕が長年患っていた”平和ボケ”という病は、完治した。

そして翌日、『かもめ食堂』を観た。そこでは、素敵な日本人と素敵なフィンランド人が、おいしいおにぎりを頬張りながら、ニコニコ微笑みあっていた。

もちろん、『かもめ食堂』はフィクションだ。『ミサイル発射』は現実だ。

でも、僕は、信じてみたいと思ったのだ。美味しいごはんと温かい友達がいる限り、きっとこの世界は大丈夫だって。

そして同時に、あの国の思考がおかしくなっているのは、その2つが決定的に欠けているからなのだろうということにも気付かされた。いま世界がやるべきことは、ミサイルを打ち返すことでも経済制裁でもなく、この映画をあの国の人たちに見せてあげることだ!

って、それは言い過ぎか(笑)。
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by inotti-department | 2006-07-06 22:09 | cinema
ブログ再開します!!
みなさま、たいへんご無沙汰しておりました。

数ヶ月ぶりに、こうしてブログ用の記事を書いております。

多少なりともこのブログを楽しみに、時々覗きに来てくださっていた方がもしもいらっしゃったとしたら、その方にはただただお詫びを申し上げたいと思います。

更新をサボっていた理由はいろいろありますが、ゴチャゴチャ言い訳はいたしません。全部ひっくるめて、私の個人的な理由としか言いようがありませんので、ここでタラタラとそんな弁解をしても、世間の方々にとってはただただ退屈な時間となってしまいますので、省略します。

ということで。

ブログ再開!!

今までよりさらにパワーアップして!ということはありません(笑)。今まで通り、マイペースにツラツラと書いていきたいと思います。

興味のある方は、どうぞお付き合いください。
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by inotti-department | 2006-07-06 21:28 | 自己紹介
   
映画・小説・音楽との感動の出会いを、ネタバレも交えつつ、あれこれ綴っていきます。モットーは「けなすより褒めよう」。また、ストーリーをバッチリ復習できる「ネタバレstory紹介」も公開しています。
by inotti-department
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