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当ブログでは、「あの映画(小説)、一度観たんだけど、どういう話だったかが思い出せない・・・」とお困りの方のために、映画(小説)のストーリーを完全に網羅したデータベースを公開しております。詳しくは、カテゴリ内の「映画(小説)ネタバレstory紹介」をご参照ください。なお、完全ネタバレとなっていますので、未見の方はくれぐれもご注意ください。
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『父親たちの星条旗』 ~”日本編”より断然こっち!~
![]() 『父親たちの星条旗』(2006、米) 監督 クリント・イーストウッド 出演 ライアン・フィリップ アダム・ビーチ ある1人の老人が、今まさにその生涯を終えようとしていた。彼こそは、1945年硫黄島での激戦を戦い抜いた”英雄”ドクだった。彼は生涯、戦争について何も語ろうとはしなかった。ドクを英雄にした、1枚の写真。6人の兵士が星条旗を立てている姿を捉えたその有名な写真の裏には、隠された真実があった。そして、戦場から戻ったドクらを待っていた、激動の日々とは。その真実に、ドクの息子が迫る・・・。 実は12月に一度観ていたのですが、なんだか急にもう一度観たくなり、劇場へ行ってきました。一回目に観たときもスゴイ映画だと思いましたが、いやこれ、本当にとんでもない傑作ですね。 クリント・イーストウッドによる硫黄島二部作の第一弾、”アメリカ編”です。世間的には、第二弾である”日本編”『硫黄島からの手紙』の方が圧倒的に話題を集めていますが、両方観た僕はハッキリと断言します。『硫黄島から・・・』よりも、この『父親たちの星条旗』の方が、映画としてのクオリティは遥かに上だと思います。 まず称賛すべきは、ストーリーの魅力。1枚の写真の裏に秘められた真実とは何なのか?ある種のミステリー的要素も含みながら、グイグイ観客をひきつけます。しかも、映画の終盤(だいたい1時間30分ぐらいのところでしょうか)で明かされる真実の、なんともやるせないというかしょーもないこと。そして、そんな風に撮られた、なんてことのない1枚の写真が、戦争の行方や兵士の人生を大きく左右してしまう皮肉。1枚の写真を軸に物語を丁寧に進めていくその語り口は、見事の一言です。 さらに、登場人物の心の奥に鋭く迫る心理描写の深さも、実に見応え十分です。冒頭のナレーションも凄いと思いました。「戦場を知らない奴に限って、戦争について語りたがる。本物の戦場を経験したものは、決して戦争を語ろうとはしない。忘れたいからだ」。これほど説得力のあるナレーションが、かつて存在したでしょうか。 自分たちを英雄視しようとする政府や世間に振り回される3人の心理描写の書き分けも巧みです。それをチャンスと捉え、人生を切り開いていこうとするレイニー。これはこれで責められるものではありません。一方で、そんな日々に違和感を感じつづけるアイラの苛立ちにも、心揺さぶられるものがありました。死んだ戦友たちの母親と顔を合わせるシーンの、なんと切ないことか。名シーンだと思いました。 社会を見つめるクールでシャープな視点にも、唸らされました。結局、世間というのは表面的に物事を捉えようとするもので、ひとりひとりの人間の心理にまで想いを馳せることはないのかもしれません。果たしてどれだけの人が、アイラやドクの悲しみに気付いていたでしょうか?いや、そんなことは百も承知で、利用したのかもしれません。世間や社会の横暴さの前に、個人はいつも無力だということを改めて痛感させられました。 そして、この映画が何よりも素晴らしいのは、そのパーフェクトな構成力にこそあります。もしもこの映画をただただ時系列に並べたとすれば、これほどの傑作にはなっていなかったと思います。硫黄島の戦闘シーンと、戦争後のキャンペーンと、現代におけるドクの息子によるインタビューを巧みに織り交ぜた見事な構成。これらを交互にミックスさせながら、少しずつ写真の真相と戦争の真実を紐解いていきます。映画を観終えた今、「これほどベストな繋ぎ方が他にあるだろうか?」とすら思ってしまいます。 アイラやドクの回想への持っていき方もうまいんですよね。電車の騒音から戦場の銃声に繋げたり、ストロベリーソースから兵士の血に繋げたり、打ち上げ花火から爆撃音に繋げたり。時間軸の移動の仕方が、本当に巧いです。写真の真相を明かすタイミングも、ベストだったと思います。そして、その後、戦友の死が立て続けに描かれ、ドクやアイラが抱える虚無感の深さが一層明らかになります。 ネタバレになるので詳細は伏せますが、ラストシーンも素晴らしいです。ドクの息子によるナレーションには、心揺さぶられるものがありました。僕らが同じ過ちを繰り返さないためには、結局それしかないのだと思います。戦争で犠牲になった方々を、ひとりひとりの個人として見つめ、その苦しみに思いを馳せること。まずはそこからなのだと思います。 さてさて話を戻して、なぜ『硫黄島からの手紙』のほうが称賛されているのか?それは日本だけの現象ではなく、むしろアメリカにおいてこそ顕著なようです。アカデミー賞作品賞にノミネートされたのも、『硫黄島』の方だけでしたし。 おそらく『硫黄島からの手紙』は、全編日本語によるセリフで戦争における日本人がきちんと描かれていることが、アメリカ人にとってはとても新鮮なのだと思います。でも、日本人の僕からすると、そんなことはいつもの日本映画となんら変わらないので、特に驚きはありません(もちろん、ハリウッドのイーストウッドがあれだけの質の高い”日本映画”を作り上げたことにはただただ脱帽ですが)。 ということで、もしも『硫黄島からの手紙』のみを観てこの『父親たちの星条旗』を見逃した方がいらっしゃいましたら、必ずいつかDVDでチェックしていただきたいと思います。何度も言いますが、映画としての奥深さ・面白さでは、『父親たち・・・』の方が遥かに上だと思います。個人的には、アカデミー賞作品賞を受賞しても何ら不思議のない傑作だと思っています。 って、ノミネートされてないのか・・・。
by inotti-department
| 2007-02-04 01:07
| cinema
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映画・小説・音楽との感動の出会いを、ネタバレも交えつつ、あれこれ綴っていきます。モットーは「けなすより褒めよう」。また、ストーリーをバッチリ復習できる「ネタバレstory紹介」も公開しています。
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