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当ブログでは、「あの映画(小説)、一度観たんだけど、どういう話だったかが思い出せない・・・」とお困りの方のために、映画(小説)のストーリーを完全に網羅したデータベースを公開しております。詳しくは、カテゴリ内の「映画(小説)ネタバレstory紹介」をご参照ください。なお、完全ネタバレとなっていますので、未見の方はくれぐれもご注意ください。
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映画『魂萌え!』 ~”年寄り”なんて呼べません!~
満足度 ★★★★★★★☆☆☆(7点)
『魂萌え!』(2006、日) 監督 阪本順治 出演 風吹ジュン 三田佳子 仕事一筋だった夫の定年から3年。あまりにも呆気なく、夫はこの世を去ってしまう。気持ちを整理できない妻・敏子だが、夫のスーツの中の携帯電話が突然鳴り、電話に出ると女性の声がする。数日後、家にお焼香にきた昭子という名のその女性を問い詰めると、彼女と夫は10数年不倫関係にあったという。さらに、海外生活をしていた息子・彰之が同居したいと言い出し、混乱した敏子は家を飛び出しカプセルホテルへ向かうが・・・。 平日の昼間という時間のせいもあったのでしょうが、観客は中高年の女性ばかり。「もしや、劇場内で自分が一番若い!?」などと余計なことを考えながら、”若者代表”(!?)”として観賞してきました。 桐野夏生さん原作の同名小説の映画化です。ミステリーを読まない方には馴染みのない作家かもしれませんが、『OUT』を書いた人、と聞けばピンとくるかと思います。映画にもテレビドラマにもなりましたしね。『OUT』は彼女(女性作家です)の代表作です。 さてさて、この『魂萌え!』。タイトルもなんだかユニークで、ずっと気になってはいたのですが、原作は未読の状態で映画を観ました。ということで、原作との比較という観点はいっさいありませんので、原作ファンの方、悪しからず。 感想。面白い映画でした。物語のバックグラウンドは決して楽しい設定ではないのですが、全体を通してコミカルで、とてもエネルギーがあって、最後はすごく元気の出るような、そんな映画でした。『魂萌え!』というタイトルも、観る前はあまり好きではなかったのですが、映画を観終えてみると、「フムフム、素敵なタイトルだなぁ」と思えるから不思議です。 最近ニュースを見ていると、「2007年問題」というキーワードと出くわすことが多々あります。あるいは、「団塊の世代」というフレーズも同様です。この映画が描いているのは、まさにその団塊の世代の退職後の生活そのものです。 仕事一筋で生きてきた夫と、その夫をひたすら家で待つことが人生の全てだった妻。夫が定年退職し、「さぁ、これからどう生きる?」というところで、夫はあっさり死んでしまいます。仕事を辞めることで”張り”をなくして病気になってしまう男性って、案外多いそうです。 問題は、残された妻の方です。こちらもまた、”夫を支える”、あるいは”子供を育てる”ということを人生の”張り”にしてきました。夫がこの世を去り、子供が自分の手を離れたいま、彼女はこれからどう生きていけばいいのか?これが、この映画の最大のテーマです。 第2の人生を自らの手で力強く切り開いてくる彼女の生き様が、僕にはとても心に強く残りました。ひとりでカプセルホテルに泊まってみたり、怪しげな老女に騙されてみたり、自分より容姿の優れた女性と恋のバトルを繰り広げてみたり、性格もキャラクターもバラバラな友人たちとケンカしたり仲直りしてみたり、ちょっと素敵そうな男性と恋愛をしてみたり、失恋して傷ついてみたり、ヤケ酒してみたり、大好きな映画関係の仕事をはじめてみたり・・・。そのエネルギーに、なんだかとっても勇気付けられました。 「人生を楽しむのに、15歳も60歳もないんだ!」僕が感じたのはそんなことです。実際、そうなんだと思います。そしてまた、小さなことでクヨクヨしたりウジウジしたりするのにも、子供も大人もありません。 僕は自慢じゃありませんが、25歳を過ぎても15歳の頃と精神年齢がほとんど変わってないような実感が自分の中にあります。そして、それはおそらく、今後30歳になっても40歳になってもその感覚は変わらないんじゃないか、という妙な確信もあります。 この主人公も、同じような感覚で生きているのではないでしょうか。だって、この映画って、彼女が60歳じゃなくて30歳だったとしても同じように成立する話ですから。まぁ、とはいえ、60歳の彼女がそういうパワフルな生き方を選択していくところに、この映画の魅力はあるわけですが。 風吹ジュンが主人公を好演しています。ベッドシーンあり、入浴シーンありの大盤振る舞い。これが、そのへんの60歳だったら、「そんなババアの裸、誰が見たいねん(おっと、失礼!)」ということになるのですが、そこはさすが名女優。年齢を重ねたからこその美しさを、見事にスクリーンで表現しています。もちろん、その美しさは、容姿だけではなく主人公の内面の魅力からくるものです。この主人公の”かわいらしさ”を、見事なまでに愛くるしく表現しています。素晴らしいです。 そして、同じく素晴らしい演技を見せているのが、三田佳子。この存在感には恐れ入りました。少し気が早いですが、来年の今頃は、映画賞の助演女優賞を総ナメにするのではないでしょうか。出演時間は決して長くないのですが、映画の面白さを倍増させる役目を見事に果たしています。 この2人の描き分けが、非常に巧いんです、この映画。特に感心したのが、三田佳子演じる昭子の足の指のペティキュアの表現です。最初に敏子の家に乗り込んできたときの昭子の指には、見事なまでにペティキュアが塗られています。それを見て敏子は、女性としての敗北を感じます。 一方、その後、今度は敏子が昭子の蕎麦屋を訪れる場面。このとき、バッチリメイクの敏子に対し、昭子は髪もボサボサで当然足指も手付かずなまま。 そして、その後の2人のセリフがまた素晴らしいんです。昭子は「奥様が優位に立てるのは、あなたが妻の立場だから」と言い放ち、一方の敏子は「勝ち負けじゃない。私の気持ちもわかって」と叫びます。 2人とも、それぞれ違った苦しみを抱えて生きてきた、ということなんですよね。妻である悲しみ。愛人である悲しみ。そして、2人とも「ひとりの女性」という意味では、妻も愛人も関係ない同じ立場なんです。攻守交替したときの互いの変化は、まさにそんなことを意味しているのだと思います。 男性としては、「女性は強いよなぁ」というような感想を持ってしまう部分もあります。確かに、女性たちの逞しさと比べて、まぁ、男たちの情けないこと。 でも、僕はあまりそういう見方はしたくありません。「自分の人生を、自分で切り開いていく」ことがどれほど大切なことか、その点に男女も老若も全く関係ない。それこそが、この映画の本当に伝えたかったことなのだと思うからです。 それにしても、これからの60代・70代が、どんな社会を作り上げていくのか。なんだか楽しみなような、怖いような・・・・。少なくとも、「おばあちゃん」という言葉の定義は、これから変わっていかざるを得ないような気がします。
by inotti-department
| 2007-02-21 00:31
| cinema
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映画・小説・音楽との感動の出会いを、ネタバレも交えつつ、あれこれ綴っていきます。モットーは「けなすより褒めよう」。また、ストーリーをバッチリ復習できる「ネタバレstory紹介」も公開しています。
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